2021年10月23日(土)15:30〜17:30 昭和大学附属烏山病院 入院棟1F食堂ホール
司会 横井(烏山病院デイケア 臨床心理士。以下、横井):
ここからは「令和3年度 東京都精神科医療地域連携事業公開講演会」を始めたいと思います。前半の司会は、烏山病院のデイケアで臨床心理士をしています横井が担当させていただきます。後半は音羽先生が司会をやらせていただきます。どうぞよろしくお願いします。
それでは、第1演題、東京都発達障害者支援センター(TOSCA) に勤務されている加藤公一さんにお話しいただきたいと思います。
簡単に加藤さんのご略歴を紹介したいと思います。看護師として幅広く活躍されている方で、精神科の単科の病院での発達障害の支援なども行っておりました。その後、就労移行支援事業所で発達障害の支援に特化した所の立ち上げもされて、そこのサービス管理責任者をされて、今年の6月までの1年半は内閣府の省庁の障害者雇用についての支援なども行っていて、今は東京都発達障害者支援センターで働いていらっしゃる、非常にパワフルな方です。
まず最初の演題は「成人期発達障害と就労支援―生活者としての自立と社会人としての自立に向けて―」ということでお願いしたいと思います。
講演① 『成人期発達障害に対する就労支援』
加藤 公一 東京都発達障害者支援センター
加藤 公一(東京都発達障害者支援センター。以下、加藤):
皆様、こんにちは。今、横井さんからご紹介いただきました。私は、東京都発達障害者支援センター、通称TOSCAと言われている所で、地域とのつながり、支援機関や医療機関との連携、つながりをつくっていく、そういった役割をしている地域支援のマネージャーをさせていただいています。
私の専門というか、やってきたことのベースというのは看護師になります。烏山病院でのデイケアの取り組みも含めて、先程ご発表がありました。私も、精神科の中でも発達障害の専門の病院で、横井さんにお世話になりながら発達障害の専門プログラムにかかわって、そこからの訪問看護、ご自宅に伺ってご家族のお話も聞くとか、ひきこもりの方の対応をしていくとか、そういったこともして参りました。
病院からの就労支援からスタートして、就労移行支援事業所の立ち上げ、病院ではなくて今度は企業に所属して、そこで障害者就労の支援もしておりました。
前職は内閣府で、今日も見えているかもしれませんが、発達障害の方でも常勤の職員で活躍されている方もたくさんいらっしゃって、非常勤ですがステップアップをしていくということで頑張っていらっしゃる方もいますので、そういったところの採用から採用後の職場とご本人の間に立った支援、そういったところもして参りました。
本日は、「生活者としての自立」は、まずは家の中でのイメージでいいかなと思います。家庭の中というのは、ご自分なりご家族である程度コントロールができる、自分でできることをどんどんふやしていけるという所です。
もう一つ、「社会人としての自立」というのは何かというと、職場をイメージしていただければいいかと思います。職場となると、会社組織、職場での集団の中での一員として動いていくことになりますから、ご自分の都合だけでは動いていけません。ご自分と他者、職場の中で折り合いをつけながらコントロールをしていく、ペースを作っていく、これが一つの「社会人としての自立」という考え方かなと思いましたので、このようなテーマにさせていただきました。
本日のお伝えしていく内容ですが、私の予定が大体16時半を目安ということで伺っておりますが、これを全てお伝えすることは多分、物理的に無理です。ただ今回は皆様には冊子でお配りしています。後半の部分に関しては、主に就職をした後、親元を離れて自立をしていく上で、生活面として何を準備しておいたほうがいいのかということです。
ご家族と一緒に住んでいれば、知らないところでご家族がサポートをしてくれていて、ご家族にしてもらっていることに気づいていないけれども今は生活できているという方も多いと思います。でも、独り暮らしをしていくということになると、仕事だけではなくて、生活のことも、起きるところから、ご飯を食べて、お風呂に入って、会社に行って帰ってくるまでやることがたくさんあるわけですが、日常生活も含めて、ご自分でもある程度やっていかなければいけないことがふえます。地域の中で自立をしていくところの内容がメーンにはなりますが、そこのところはまた皆様で確認をしていただければと思っています。
まず、「働くことのイメージ」です。今回は就労支援というところでお話をさせていただきます。皆様の中には、これから就職活動を考えていこうという方もいらっしゃると思います。ご家族の中でも、これからご本人とお話をしていこうかなという方もいるかもしれません。
その中で、まずは「働くことのイメージ」のところが非常に大事になります。ご自分側の条件としては、やりたいことがまずあるのか、ご自分で気づいているか。やりたいこととは別に、できることは何か。やりたいこととできることが一致している場合もありますし、一致していないことのほうが多いかもしれません。
やりたいことというのはご自身で考えやすいところですが、できること、できていることというのは、周りの人から、「あなた、ここはできてるんじゃない?」「いい部分じゃない?」「強みじゃない?」と言われて気づくところだったりするので、ご自身では気づくことがなかなか難しい場面も多いかもしれません。例えば烏山病院でのプログラムやデイケアなど、そういった中で、ご自分のできること、できていることを気づくということも大事だったりします。
もう一つ就労で大事なのは、職場側、会社側の条件ということがあります。いくらご本人が、やりたいこと、できることがあるよと言っても、求人としてそれがなければやらせてもらえませんし、採用にはならないんです。
そこのところは折り合いをつけていかなければいけません。真ん中の重なる部分が大きくなればなるほど、理想に近づく就職ということになります。ただ、全てが重なるというところは難しいですから、部分的に重なったところで就職するということが現実なんだというところを、ご家族もご本人も含めて、あと今日は支援者の方もいらっしゃると思いますが、念頭に置いておくことが大事かなと思います。
今、私は就職活動に向けてということでお話をしましたが、実際働き始めると、このイメージは引き続き大事になります。仕事をやっていくと覚えることがふえて、その中でやれることがふえてきます。採用されたときから半年1年たってくると、自分ができることもふえてきますし、働いていくうちに、もっとやりたいことがふえてくるかもしれません。就労意欲がどんどん高まっていくと、働いていく中での自分側の条件と、経験年数を重ねていくとそこで信頼関係が出てくれば、職場のほうからも任せてもらえることがふえてきます。
自分は仕事はできているんだからということだけをどんどんアピールしていってしまうと、職場としても大丈夫かなということで心配になってしまいますから、就職した後にトラブルになりやすいというところも逆にあるわけです。このお話は、採用前だけではなくて、採用後も実は大事なところになります。就職した後、どうキャリアを重ねていくかというところです。
実際にどういうふうに重なって折り合いをつけていくかという一つの例を、ここにお出ししました。例えば本人は有名なホテルのフロントで働きたいという希望があった。できることは何かというと、バイトで喫茶店のウエイトレスをやっていた経験はある。有名なホテルのフロントで働くということの経験はないけれども、ウエイトレスの経験はある。実際にやらせてもらえること、採用された条件としては何かというと、有名なホテルには採用されたけれども、レストランに配属されて接客係として働いてもらうということになりました。
企業、職場からしてみると、実際できていることを前提に、実戦力というところで採用を考えていきます。本人からしてみると、有名なホテルで働くことはできた。ただフロントに配属されてはいないので、そこは希望はかないませんでしたけれども、ウエイトレスとしての経験というところを職場側が評価をしてくれた。有名なホテルで働くことができるのだったら、まずはレストランで働いて、いずれフロントに配属されるように頑張っていこうというふうに折り合いをつけていくということです。考え方の一つの例として挙げましたが、こういう「働くことのイメージ」の持ち方は大事かなと思います。
二つ目に、就職の準備を進めていく上では、まずは「ありのままの自分を整理する」ということです。先ほどデイケアのプログラムでもありましたが、ご自分の強み・弱み、そういったものを整理をしていくというところになります。
就労でも障害特性というものが影響するわけです。何で緊張するのか、何でパニックになってしまうのか、どうして人前に出るとしゃべれなくなってしまうのかといったときには、ご自身の特性だけではなくて、環境、どういったシチュエーションだったり、どういった相手だったり、どんな場面だったりということが影響するわけです。
今も私はこれだけ多くの人たちの目の前でしゃべっているわけですが、皆さんからすると加藤という1人の人間を見ているにすぎませんよね。でも、私からすると100人近い人の視線を感じているわけです。皆さんが感じている感覚と加藤が感じている感覚は全然違うんですよね。今の私が置かれている状況から、心臓がどきどきする、しゃべるのにすごく声が震えてしまう、足ががくがくしてしまう、そういう状況が周りの環境で影響を受けて出てくるということもあるんですよね。
強み・弱み、ここでいうと「よさ・できること」「気になること」、こういったところについて、どういった環境が影響しているかということを考えていただく。どういった本人の希望、家族の願いがあるかということも考えて、「気になること」を「よさ・できること」でどういうふうに解決できるか。あとは取り組めそうな課題から始めるということをやる。
自己理解を進めていくときは、自分で取り組むだけではなかなか理解は進まなくて、できていることとか、よさとか、そういったところは周りの人からいろいろ教えてもらって気づくということが多いですから、グループワークや、その方その方で特性が違いますから、個別面談で、何から取り組んでいくかという優先順位のつけ方を、支援者、ご家族と一緒に考えていくということが大事かなと思います。
私が内閣府にいたときにも、採用された後に職場で困ってしまって、自分の特性について、どういうふうに上司と話をしたらいいかわからないということがあって、この「自己理解シート」を使ったケースが幾つかありました。
例えば烏山病院にいた方であっても、職場にデイケアのスタッフが同行してくれるわけではありませんよね。支援者が職場にずっといるわけではないので、必要なことはご自分で上司なり同僚に話をしなければいけません。そのときに、前提として、自分はどんな状況か、どんな人かというところを伝えていきたいということがあったときに、自分のことについて整理をしておくと話がしやすいと思います。
「よさ・できること」は、どういった環境で、どんなときなら自分のよさが出てくるのか、「気になること」は、どんな人だと自分は苦手だと感じるのか、そういったことを整理をしていくということになります。
実際に働いている方が初めて自己理解というもので取り組んでいただくということを職場でやったものを、今回皆様にご紹介させていただきます。部分的に書き方はちょっと違うというところはあるんですが、参考になるところだったのでここに載せてあります。
例えば、「生活面」であれば、「しっかり、睡眠をとることを心掛けている」と書いていますが、睡眠がとれている。どうしてかといったら、寝る時間を決めているし、寝やすい環境をその人なりに考えている。どういうことかといったら、睡眠導入の音楽をかけているというふうに、そこは自分できちっと理解されています。冷房をかけることを忘れがちになる。何でだろうかといったら、それは体温の反応に鈍感なところがある。
こういうふうに、どういった状況が自分の問題行動として出てきているのかというのを整理をしていきます。最初から1人で全部書けているわけではなくて、第三者、支援者や理解者と一緒に書いていくということもやっていきます。
あとは「感情・感覚・行動・性格」に関することです。例えば音に過敏に反応しやすい、これをいいところとして挙げています。これは職場でいうと何かというと、電話の音とかが聞こえやすいので、すぐ電話をとることができるということで、ご本人はいい部分として挙げていました。音に過敏に反応しやすいというのが、悪いことばかりではなくて、その方の職場での役割ではメリットに変わっているというところもあります。
逆に気がかりなところでは、丁寧に物事をこなすことに時間がかかりやすい、速さを優先してしまうというところを挙げています。これはなぜかというと、身の回りが落ちつかないこと、周りがばたばたしている、上司が早口でしゃべるとか、周りの人が早足で歩いているとか、そういう状況になると、丁寧にやっていたはずなのに、いつの間にか雑になって速さを優先してしまっているということです。
こういうような状況に応じて自分はどういう反応が起きているかというところを整理をしていただきます。
「学習・遊び」と書いていますが、これは職場に置きかえて考えていただいたりします。例えば国語の漢字や地理歴史の科目は得意です。何でだろうかというと、単語とかキーワードを部分的に覚えやすい。長文だと記憶にとどめることが苦手ですけれども、仕事の上であれば、単語やキーワードでやりとりできれば、そこから行動に移すことができるということです。これはこの方の強みのところとして出てくるのかなというふうに見られます。
逆に気がかりなところとしては、数学の証明や、国語の文章読解が苦手というところを挙げています。例えば、仕事をする上でメールで指示をもらう、文章でずらずらと書かれたことを指示として読まなければいけないといったときに、どれも大事に見えるし、どこの部分が重要なのかがわからない。文章の中で一番大事なところは①②③と優先順位を書いてくれているわけではないので、やることの内容が大事なのか、いつまでにやるという期限が大事なのか、どこを第一優先で考えたらいいかというのがわからなくなってしまう。どれも大事だと思ってしまうので、ここは苦手なこととして出てきてしまうということになります。
ここともつながりますが、単語やキーワードなど、ある程度、指示の内容も箇条書きでわかりやすく伝えてもらったほうが仕事としてはパフォーマンスが上がる。そういうような、仕事に関して振り返っていくということです。
あとは、「場面やルールの理解、人との関わりや言葉」、対人関係に関するところです。この中では、言葉遣いに注意して心がけているということで、非常に丁寧な言葉遣いをされる方です。この背景は何かと考えたときに、以前の接客業の中からやわらかい対応というものを身につけていったということです。何でもきつい表現にするのではなくて、思ったことはすぐ口から出てきてしまうけれども、それをその前に一度やわらかい表現に変換して言葉として出すということを接客業の中で経験されてきています。例えばデイケアのプログラムでも、トレーニングをしていくという中でもこういったことも身につけられることもあるかなとは思います。
相手から物事を言われて自分の中で食い違いが生じたときに、思っていることを相手にその場でうまく伝えられない。なぜかというと、自分自身が思っていることが本当に正しいのか自信がなくなってしまうので、しゃべっていいかがわからなくなってしまう。自分がしゃべることで、さらに指摘されたり、さらに怒られてしまうんじゃないかと思ってしゃべれなくなってしまう、必要なことが伝えられなくなってしまうというふうに理解されているということです。
周りの人からしてみたら、ご本人がうまく言葉が出てきていないというようであれば、警戒しているのかな、すごく不安に思っているのかなというふうに気づいて、そして話がしやすいように問いかけていくとか、面談の機会を設けるとか、逆にそういう配慮をしていく、こういったことも大事なのかなと思います。
続いて、ご自身の強み・弱みというところを理解をしていきながら、どういった環境でそうなるのかというのが見えてきた、その中で、イメージしていることをどういうふうに就職活動につなげていくかというところです。
いきなり一遍に、自分はどんな仕事につきたいかと考えるのは結構大変だと思います。どんな求人があるかということを探すことも大変ですけれども、自分に合っている仕事なのかとか、自分がイメージしている仕事の難しさと実際の難しさ、仕事の難易度、こういったものも考えていかなければいけないんですが、まずは、ご自分の好きなこと、興味のあることから考えていただくのがいいのかなと思います。
ご家族とお話しするときも、急にどこがいいのかという職場選びの話題ではなくて、まずは、その方の好きなこと、興味のあること、自分の強みのところから話をスタートしていくほうが、その後、話がつながっていきます。結局、苦手なことになってしまうと、指摘することになってしまうので、モチベーションも含めて、私もそうですが、相手から指摘ばかりされたらやる気がなくなりますよね。できているところがあれば、それこそ自信を持って次に進んでいこうかなと思いますし。
そして、ご自分の性格や経験から、強み・弱みというものを考えていくということです。強みのところから、やりたいことは何かということをつなげて考えていく。弱みのところ、自信のないところからやりたいことを考えるというのは難しいですね。何でもいいんです。まずは、自分の強みのところから、どういうふうにやりたいことを見つけていくかということを考えてもらう。
そして、その次、「自分の強み・弱みとやりたいこと・やりたい仕事を関連付ける」と書いていますが、実際に就職活動に向けての就労の準備を考えていくということになります。そのときには、現実的に何から始めたらいいのかということを考えていきます。支援者も、職場選びの方法も、就職準備に何が必要かということもまだわかっていないのに、急に求人を見てもわかりませんから、まずは今何ができるかというところを考えていくということです。
就職した後も、寝たり起きたり、ご飯を食べたり、お風呂に入ったりという生活行動はしなければいけません。お仕事が始まったからご飯が食べられなくなってしまったとか、洗濯はしなくて臭い服をずっと着ていたとか、そういったことになってしまうと健康にも害が及びますので、就労者として働きながらでも生活面でできること、やらなければいけないことは何かということを整理をしておきます。
そして職場選びの条件というところになります。なりたい自分というものをイメージしておくということです。
今はざっくりお話をしましたが、こういうふうに段階的に一つ一つ時間をかけながら、周りの人と一緒に進めていくということが大事かなと思います。
そして、「自分の強みを活かした就労準備」というところになります。例えば特性として、心配性で、大ざっぱで、しつこくて、こだわりが強い、こういうところがあったとしても、見方によっては、心配性というのは用心深さがある、大ざっぱというのはおおらか、しつこいというのは粘り強く続けられて取り組める。こういうふうに見方を変えていくということで、就職先の選択の幅といったものが広がってくるのかなと思います。
(58ページ下段の)右側に「生活の楽しみ」と書きました。生きがい、生きていく上でどんなことを大切にしているか。自分が大切にしていることのほかに、仕事以外の楽しみや対人交流、職場の人以外の人とのつながりです。
職場でつらいことがあったときに、私生活の中で楽しみがあれば乗り越えていける。仕事だけが全てになってしまうと、仕事でつまずいてしまうと、もう生活するのも生きていくのも嫌だということになってしまいます。職場で自分が否定されてしまった。もう嫌になってしまった。だけれども、生活の中で楽しみがあって、楽しみを共有する仲間がいるとか、仕事以外に自分が自信を持って取り組めていることがあれば、そこのところの自分というのは肯定的に捉えることができます。
仕事がゴールで、働くことが全てということになってしまうと、仕事でつまずいたときに働き続けるということが難しくなります。何のために働くのか、どんなふうに生活をしていきたいのかというテーマは、明確にしにくいんですけれども、意識して考えておくことは大事かなと思います。就職がゴールではないんですね。その先働き続けるということが大事になります。
5番目の「働く準備から働き始めた後も含めて必要になる要素」です。この(59ページ下段の)図ですが、真ん中に「定着支援」と書いています。定着支援というのは、働き始めた後の支援のイメージを持っていただければと思います。働き始めた後、ご本人と職場の間での支援ということでイメージしていただければいいかなと思います。
通勤、作業(業務)内容、人的・物理的環境、勤務条件、コミュニケーション、受療行動。受療行動というのは治療を受けるということです。予約の日時に合わせて通院ができるとか、決められたとおりに処方されているお薬が飲めるとか、決められたとおりにカウンセラーさんとお会いしてお話ができるとか、こういったことを「受療行動」という言葉にしています。これは働き始めてからもずっと大事になりますし、就職活動を始める前からも大事になります。共通して大事な項目になるということでご紹介したいと思います。
まずは「通勤・勤怠」のところですが、(60ページ上段の)左側のところはちょっと難しく書いていますけれども、右側の〈一例〉というところを見ていただければわかりやすく書いてあります。
疲れの持ち越し、疲れが回復しないでどれだけ残ってしまったか。どういう頻度で回復されていくのか、疲れが取れていくのか。一晩寝たら疲れが取れるという人もいれば、週末にまとめて疲れを取って翌週に向かっていきますという人もいます。疲れの感じ方、疲れの取れ方は人によって違うわけですが、そういうのは働いていくときにも大事になります。
あとは起きる時間がある程度決まっているか。睡眠が乱れてしまって困っているという方も多いですが、お薬だけでという調整もなかなか難しかったりします。そういったときには時間管理も大事になりますし、寝るときの環境をどう整えるかということも大事になるんですが、起きる時間が一定で決まっていることが睡眠のリズムに対しても大事かなということで目安にしています。
こういう内容について、疲れの感じ方や回復の状況に見合った活動の方法、活動の量の調整をするということが大事になるのかなと思います。疲れが取り切れていないのにまた活動しようとすると、さらに疲れます。回復するのにさらに時間がかかってしまいます。そうすると必要な行動がとれなくなってしまうということになります。最終的には、仕事をする上では遅刻をしたり欠勤をしたりということにつながってしまいます。
二つ目の「受療行動」については、例えば、通院や内服を忘れることがあるか、ないか。主治医とのやりとりを関係者と共有しているのか。
私が職場側の支援者としていたときに、通院するといったときに、職場は勤務の調整をしたりしてくれるんですけれども、先生とご本人でどんな話をしたかとか、職場でこういったことを気をつけていこうといった内容が、職場の誰にも伝わっていない。ご本人も、それを全部記憶としてとどめておいて、常に神経をとがらせて仕事ができるかというとなかなかできないので、必要なことは職場の方と共有していくということが大事になります。どこの部分を職場の人と共有するのか、周りの人と共有するのかというのは大事です。
これはご家族とも一緒です。診察の場面は、ご本人と主治医だけになりますから、必ずしも誰か同行していて同伴で診察室にいるわけではないですね。時にはそれを周りの方と共有することも大事かなとは思います。どんなときに頓用薬を使うか。主治医に伝えたいことを話せているか。自分が困ったときにどう対処したらいいか。
職場ではいつも支援者に相談するんですが、「それは職場でも解決できないから、主治医の先生にも聞いてみてね」と言うんですけれども、診察が終わって帰ってきたら、「いや、話せませんでした」ということも多いです。職場の上司からすると、「何で。だって、せっかく先生にお会いできたんでしょう」と言うんですが、ご本人も限られた時間の中でお話をしようとしたときに、例えば烏山病院まで来るのに途中トラブルがあって、電車が遅れてしまって、通行人にぶつかってしまって大変だったんですよと先生に言って診察時間が終わってしまった。その時のことをお話しして、職場の話ができずに終わってしまった。本人としては、今大変だったんだということを先生に伝えたいわけです。それは間違いではないんですけれども、結局、必要なことを話せているかというところになります。
主治医の先生は、どこで、誰が、どうなっているかという職場の状況が見えてきませんので、そういったところも事前に準備をしておくことも大事かなと思います。
「作業内容」というところにも、よく言われる、集中力、指示理解、正確性、ルール遵守、報連相と書いています。職場では誰から業務上の指示を受けているのかという窓口が明確になっているか。業務を進める中での確認は、いつ、誰にするのか。業務の期日、手順はどうなっているか。自分が取り組んだ仕事の結果はよかったのか悪かったのかということの振り返り、フィードバックをもらえるのかどうか。
自分のやったことが正しかったかどうかということを明確に伝えてくれないと、自分のやったことはどうなのかということで不安になってしまうわけです。そうすると、また仕事の依頼が来たときに、大丈夫なのかどうなのかということで、仕事に取りかかるのに時間がかかってしまう、不安が先になってしまって手が動かない、行動ができないということになったりもします。そうなると指示が聞き漏れてしまったり、ミスが起きたりということもありますので、作業の流れや見通しなど、目安になるものが職場の方とも共有できることも大事になります。
「就労環境」、どんな環境で働くかというところです。対人関係のところでいうと、職場で相談しやすい関係があるのか。今はソーシャルディスタンスということで一定の距離が保たれていたり、パーティションがあったりしますが、周りの人との距離感。周囲の電話の音が気になってしまうから、電話機はどこに置いてあるのか。周りの人の話し声。
いろいろな職場があるんですよね。皆さん一斉に同じ作業をしている職場があれば同じ音がするんです。けれども、同じワンフロアでも部署ごとに違う仕事をしていたら、違う話し声だったり、パソコンをたたく音だったり、電話の音だったり、来客の声だったり、いろいろな音がまざってくるんです。そういったところでは状況が全然変わってしまうんです。どんな環境で働いていくのか、自分がどういう状況に置かれていくのかというところが大事だったりもします。つらくなったときに職場環境を変える手だてや、耳栓やサングラスなどのグッズもありますが、そういった活用はできるのか。
そういったところも大事になりますが、まずは就労準備を進めていく中でも、自分の支援者、理解者がどこにいるのか、誰なのかということを明確にしておくことが大事ですし、いつ、誰に相談するのかということは大事かなと思います。あとは、ご自分の感覚の過敏さがどこかというところも、就労環境を考えるときには大事かなと思います。
続いて「勤務条件」になります。どれだけの時間働くのか。1週間とか1カ月のうち、どれぐらいお休みが欲しいのか。給料はどれぐらい欲しいのか。発達障害の方の障害者雇用での賃金ということになると、1カ月が大体14~15万円ぐらいという統計調査が出ています。単身の一般の方の独り暮らしでかかるお金は大体16万円ぐらいと言われています。国のほうで統計調査をとっています。今言った障害者雇用での14~15万円ぐらいというのは、大体30時間以上でフルタイムで働いた場合の目安です。
そういった中で、どういった生活をしていきたいかというところもかかわってきます。就職をする前の生活パターンと仕事を始めてからの生活パターンのギャップが大き過ぎてしまうと、息切れしてしまって仕事が続きません。起きる時間が全く違うとか、お休みの間隔が全然違うとか、働き続けるということはそういったことも大事なテーマになります。
あとは、お金の管理です。収入はある中で、入ってきた分を全部使ってしまっていいのか。全部趣味に使ってしまうと衣食住で使うことができませんから、どこの部分にお金を使っていくのかということも、ご家族と一緒に生活をしている段階から考えておくことも大事かなと思います。
どんな生活をしていきたいかということですよね。趣味のこういったところも大事にしたいし、仕事も頑張りたいし、だけれども休みも欲しいしということです。
実際の話として、サクソフォンを趣味としている人がいました。その方は統合失調症の方ですが、サクソフォンを吹くということで、いろいろなところのジャズ喫茶で演奏会をやったり、人との交流があったりして、すごく楽しい、だから仕事も頑張れると言うんですね。だけれども、フルタイムで月から金まで全部働いてしまうとサックスの練習ができないんです。そうなってしまうと自分の大事にしている活動ができなくなってしまう。だから、週5日はお仕事に行くんですけれども時短勤務でというところを探して、お住まいも防音の設備があるようなところに住もう、そのために仕事を頑張って稼ぐんだと、そういう目標を持って頑張っているという方も実際いらっしゃいます。
あとは「コミュニケーション(対人関係)」のところになります。得意な人、苦手な人、ご自分のお話をするときの癖、どんな傾向があるかというところ、ご自分で努力をしていること、気をつけていること、こういったことも全部入ってきます。周りからアドバイスをもらったときにそれを聞き入れるということも、仕事でも大事になります。結果がどうなのかではなくて、それをまずは行動で試してやってみるということです。
(62ページ下段の)右側を見ていただければと思います。ふだんと同じテンポで話ができているかというのが一つの目安だったりします。視点が定まらないとか、ドキドキしてしまって呼吸がうまくできなくて声が出てこなくなってしまうとか、言葉が詰まってしまうとか、いろいろなことが起きたりします。逆に、その場をやり過ごしてしまうというところもあって、わかっていないのに「わかりました」と言ってしまい、うなずいてしまう。そうしたら、職場では上司は、加藤君はわかっているんだと思ってしまうわけです。そういうジェスチャーをしてしまうんですね。これが一つの癖となっているところもあるかもしれません。
いくら努力をして頑張っても変えられない部分というのはあるんですね。これは発達障害の人だけではなくて、私も傾向があったりしますが、気をつけていても失敗してしまうということもあるし、苦手なものは苦手です。そこをいくらどうにかしようといっても無理です。
そういうふうに、いい意味での割り切りというのは大事だなと思います。仕事選びのときの折り合いということも大事だというお話をしましたが、自分自身を受け入れていくときというのは、いい意味で割り切っていくということも大事だと思います。だって変えたいと思っても変えられないということですよ。だから逆に、自分の今できているところや、周りから褒められているところを頑張って、それを仕事に活かしていこうというふうに切りかえていくほうが仕事をする上でも長続きします。そういったことが対人関係でも大事なところかなと思いますし、逆に、努力しても難しいところは周りの人にサポートしてもらうということでいいと思います。
私だって、7月から新しい職場で、今TOSCAというところにいますが、相談支援というのはそんなに専門でやったことはないけれども、わからないことが多くて周りに助けてもらいます。皆それぞれ助け合っていくというところはありますから、自分だけが助けてもらっているんだということではないと思います。
あとは、アドバイスを受けてとりあえず行動してみる、チャレンジするということです。失敗したら怒られるとか、失敗したらもう次がなくなってしまうというふうに考えてしまうと思います。だからこそ、周りの人との関係づくりというところ、ふだんが大事なんだということです。誰でも失敗もするし、苦手なものはあるんだということです。それを前提とした人間関係をつくっておくというのは大事かなと思います。
「働き始めてから話題になること」として6番目に書いています。内閣府で当事者職員というのは1人ずつ各部署に配属をされてしまうので、周りに障害者雇用の人は一人もいない中で、自分だけ障害者雇用で、周りに支援者がいるかといったらいないんですね。障害者雇用専門支援員といっても、当時、私ともう1人と、2人しかいない中で働かなければいけないんですね。ふだん何か困ったことがあったら自分で動かなければいけないという環境だったので、月1回、必ず当事者職員で顔合わせをして、日ごろのこと、仕事以外のことも自由にお話しする機会をつくりましょうということで、当事者職員の交流会というのがありました。
今、私は内閣府を離れましたが、月1回、この交流会のときにはオブザーバーとして内閣府に行っています。実際に働き続けている、頑張っている皆さんの様子を共有して意見交換をしたりしています。働き始めてからどういったことを話題として挙げているかというのを参考までに載せておきましたので、確認してみてください。「働き始めてから話題になること」。ここ(63ページ下段)に挙げていることは、働き始めるとこういったところが話題になるんだなというふうに、目安として見ていただければいいかなと思います。
働き始めてからどんな心理的・身体的な変化が出るかということを7番目にも書いてあるので、読んでいただければいいかなと思います。自分に対して自信がなくなったり、失敗したらどうしようかと不安になったり、自分はこんなに頑張っているのにどうしてわかってくれないのかといらだってしまったり、いろいろな状況が起きます。おなかが痛くなってしまうとか、朝、目が覚めるけれども体が起き上がらない、ベッドで横になった状態でずっといるとか、いろいろなことが起きます。7番目に挙げている内容が、もしご自身で今これに当てはまるなということがあれば、周りの支援者やご家族に相談する一つの目安にしていただいてもいいのかなと思います。参考までに見ておいていただければと思います。
独り暮らしに関して、生活面でどういった準備をしておいたほうがいいのかというのも、先ほどの当事者職員の交流会の中でインタビューした内容を8番目に載せておきました。障害者雇用で働いている人からのコメントなので、8番目のところも見ておいていただけるといいかなと思います。
9番目、働きながらご自身の体調をコントロールするためには、日常生活のこういったところに気をつけていただきたいということで、項目ごとに解説をつけてありますので、ぜひごらんになっていただきたいと思います。
私のお伝えは以上とさせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。(拍手)
横井:加藤さん、ありがとうございました。それでは、どなたかご質問などあれば挙手をお願いします。
参加者○:最初のほうで自己理解シートというものに触れておられましたが、それは就労パスポートやナビゲーションブックのようなものですか。それとも全然別物ですか。
加藤:ハローワークで就労パスポートというのを出していますよね。自己理解ということで書いて、それを職場にも共有をしてとか、就職活動のときにも使ったりしているのかなとは思うんですけれども、書きにくい、難しいところもあると思うんですよね。項目もたくさんありますし、書いていくうちにつらくなってしまうというか、考えが思い浮かばなくなってしまったりしますよね。私も中身は拝見していますが、ご自身ですぐ書いてくださいと言われても、なかなか取り組むのが大変です。
まずは、ご自分で取り組みやすいところから、こういった自己理解シートというもので、ご自身の強みと気がかりなところの二つだけに絞って整理をしていく。それをもとに就労パスポートに書き写していったり、少し内容を修正したりという形で、段階的に使ってもいいのかなと思います。
参加者○○:私はASDの当事者で就労移行支援事業所に通っております。50代後半で20Hの就活についてアドバイスがいただければお願いいたします。
加藤:20H。
参加者○○:週40のところ、体調の関係で、半分ぐらいの20とか30とかで働こうと思っているんですが、そういうケースの場合はどのように進めたらよろしいかと思いまして。お願いいたします。
加藤:時間だけで考えてしまうとどうしたらいいかということになるので、まずは20時間にする必要性がどこにあるのかということを明確にするということですね。ご自身の希望で20時間ということではなくて、体調のことがあって、やむなく20時間ということですよね。20時間だからこそ働き続けられるということですよね。
参加者○○:はい。
加藤:例えば先ほど私のほうでお伝えしたこういったところ(59ページ下段)で、20時間にするということで働き続けられるというところの理由づけを説明できるように、就労移行支援事業所に通っていらっしゃるということであれば、まずは支援者の方と一緒に整理をしていくということですね。健康を保つという意味でも、働き続けるという社会参加というところでも、経済的に自立をしていくというところでも、それが自分にとってもメリットがあるし、会社側にとっても、そのほうが安定して働き続けてもらえるというところ、なぜ20時間かという説明ができるというところが大事かなと思いました。
就労移行支援事業所に通っていても、そういった短い時間での求人というのがあまりないというお話も聞いたりしますが、例えば東京しごと財団、東京しごとセンターというところで、昨年度からの新しい事業で就労困難者特別支援事業というのが始まっております。これは手帳のあるなしは関係なく、障害のある方は利用はできるんですね。ここはキャリアカウンセリングから採用後の定着支援まで一貫してやってくれる、そういった制度があります。そういったところに相談をするということも一つの方法です。
ただ、就労移行支援事業所の支援者の方に何も伝えないで動くというのは、必要なときに支援を受けられませんから、まずは就労移行支援事業所の方に、自分はこういったことを考えているんだけれども東京しごとセンターへ行ってもいいか、ということを相談してみるといいかなと思います。
参加者○○:どうもありがとうございます。
参加者○○○:貴重なお話、ありがとうございました。就労と独り暮らしのところでお伺いします。就労のところは、職場の人と相談するということができるかなと思います。独り暮らしのところは、相談できる相手がなかなかいなかったり、恥ずかしくて友達には言えなかったりするので、そのあたりが自分でも不安だなと思っています。今はまだ親がいるので親に相談したりできるんですけれども、そのうちひとり孤独死になることを考えたら不安になったりするんですよね。そのあたりでアドバイスをいただけるとうれしいです。
加藤:私、今月は毎週のように自治体に呼ばれてこういったお話をしていて、先々週、江東区でも、就職した後の自立支援というお話で、どこに、どう相談したらいいかというテーマで半日お話ししたところです。例えばデイケアに通っていれば、デイケアの方に生活支援の相談の窓口をあらかじめ確認して、関係性を作っておいた上で就職をしていくということもすぐできることですね。
就職し始めた後は、ここ(59ページ下段) に書いてある定着支援というものがあります。障害福祉サービスで就労定着支援事業というのがあるので、先ほどの方も就労移行支援事業所に通っていらっしゃるというお話でしたが、就労移行支援事業所から就職した後も6カ月間、定着支援が受けられて、その後、スライドするようなイメージで、最長2年間受けられるんですね。そうすると、トータル2年6カ月、定着支援を受けられますが、それは職場での困り事の相談だけではなくて、制度上は生活の支援も視野に入っているサービスです。独り暮らしをしていくといったときに誰に相談したらいいかというのを、定着支援の支援員に相談してもいいかなと思います。
支援サービスを受けるときに受給者証というのをとることになるんですが、そういったときには計画相談支援事業所というのを利用します。そうしたときに相談支援の専門家の人にいろいろお世話になるんですが、計画相談支援事業所の人に相談もできるかと思います。どんな住まいに関するサービスがあるのかとか、住居支援サービスというのがあります。独り暮らしをするときに、保証の問題だったり、家賃の問題だったり、物件探しの問題だったりありますよね。住居支援サービスというのを各自治体でやっていますので、そういったサービスも計画相談支援事業所の人に相談してもいいかなと思います。
成人された発達障害の方に関しては、各自治体で窓口が違ったり、年齢制限で支援が切られたりしていることが非常に多くて、最初の窓口としては保健センターで相談するというのが多いかもしれません。各市区町村で発達障害の方専門の支援窓口を持っていれば、そういったところに相談ということもできるかなと思います。あとは、就労と生活と両方の支援をサポートしてくれる、なかぽつと言われている支援センターも、エリアごとに分かれていますが、都内には四つあります。そういう相談窓口は幾つかありますので大丈夫だと思います。全くないということではありません。通称、なかぽつです。
横井:障害者就業・生活支援センターです。
まだ質問したい方はいると思いますけれども、時間が来てしまったので前半の第1演題はここまでにしたいと思います。加藤さん、ありがとうございました。もう一度盛大な拍手をお願いします。(拍手)