令和3年度 昭和大学附属烏山病院公開講座


2021年10月23日(土)14:00〜15:30 昭和大学附属烏山病院 入院棟1F食堂ホール

司会 中村(昭和大学精神科。以下、中村):

 お時間になりましたので、ただいまから令和3年度公開講演会を始めせていただきます。本日はご多忙の中お集まりいただきまして、皆様まことにありがとうございます。本日司会のほうを務めさせていただきます、昭和大学精神科の中村と申します。よろしくお願いいたします。

司会 水野(リハビリテーションセンター。以下、水野):

 同じく司会を務めさせていただきます、リハビリテーションセンターの水野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。では、早速お時間になっておりますので始めさせていただきたいと思います。まず、1題目はデイケアにおける学生グループの活動ということで、デイケアの臨床心理士、今井美穂さんにお話をいただきたいと思います。では、よろしくお願いいたします。

演題① 『デイケアにおける学生グループの活動』

     今井 美穂 昭和大学附属烏山病院 臨床心理士

今井 美穂(鳥山病院臨床心理士。以下、今井):

 ご紹介にあずかりました昭和大学附属鳥山病院臨床心理士の今井美穂と申します。本日はよろしくお願いいたします。本日の発表では、まず当院のデイケアプログラムと発達障害専門プログラムの紹介についてさせていただきまして、その後学生グループという、学生を対象にしたプログラムのことについてお話しさせていただこうと思っております。

 

 では、デイケアプログラムと発達障害専門プログラムの紹介からさせていただきます。皆様の中にはきっと、デイケアプログラムとか発達障害専門プログラムというのをあまり聞きなじみがないなという方もいらっしゃるかと思うのですが、当院のデイケアではこのような形で行っております。これ (3ページ下段) が流れになるのですが、まず外来を受診していただいて、その後、DC:デイケアと SC:ショートケアの発達障害専門プログラムに進みます。そちらの見学をしていただいて、それぞれに目的に分かれて活動していただいています。

 

 今、この示している真ん中のA、B、発達専門プログラムと書かれているのですが、この活動について詳しくご説明させていただきます。

 デイケアプログラムというのが、月曜日から金曜日まで毎日行っています。A:生活支援コースと呼ばれるものになるのですが、こちらは生活リズムを整えたりプログラムを通して仲間づくりをする目的で参加いただいているプログラムになります。

  B:就労準備コースと呼ばれるものは実践的なスキルアップをしながら就労や就学、作業所通所を目指すプログラムを行っております。参加されている方は、発達障害の方や統合失調症、うつ病、依存症などさまざまな疾患の方が参加しているプログラムでして、デイケアについて興味のある方は主治医にご相談いただいたり、デイケアのほうにご連絡いただけたらと思います。

 

 こちら (4ページ下段) が発達障害専門プログラムになるのですが、今は7個も活動しているのでたくさんあるのですが、主にASDといわれる自閉スペクトラム症の方を対象にしたプログラムと、ADHD(注意欠如・多動症)の方を対象にしたプログラムを行っていて、その疾患の方を対象にして行っています。ASDやADHDの詳しい説明はこの後、音羽先生のご講演でお話がありますので、私のほうでは省かせていただきます。

 上から見ていただきますと、木曜クラブと土曜クラブとあるのですが、木曜日にやっているASDのグループ、こちらは言語表現が多い方が対象で、コミュニケーションについて学んだり自己理解を深めるプログラムです。土曜クラブは木曜クラブとやっている内容は一緒なのですが、参加している層の8割が就労中の方になります。コミュニケーションや自己理解、職場での悩みも共有しているプログラムになります。

 

 その下のサーズデイというのは、自閉特徴が強く、大集団を好まない方が対象になっておりまして、コミュニケーションや就労支援を行っております。学生グループはこの後説明するので飛ばさせていただきます。

 その下の月曜日ADHDグループ、こちらは未就労の方を対象としたグループで、衝動性等の対処を認知行動療法を活用したワーク、ディスカッションを通して学ぶプログラムになります。同じプログラムで土曜日にも開催していまして、こちらは就労している方を対象としているプログラムになります。

 

 学生グループになるのですが、こちらはASDの方もADHDの方も参加しています。学生ということなので大学生、大学院生、専門学校生など発達障害を持つ学生が対象となっています。学校生活や授業、就職活動など悩みを共有して自己理解、コミュニケーションの向上を目指すプログラムになっております。

 

では学生グループ開発の経緯から説明させていただきます。(5ページに)学生と発達障害と書いてあるのですが、まず発達障害という用語はすごく広がっておりまして、参加されている皆さんはもちろんなのですが、全国的にも結構発達障害という名称が広がっているかなと思います。

 大学や大学院をメンタルヘルスの問題を理由として休学・退学した者の10%が、発達障害と言われております。発達障害学生ですね、障害学生の在籍率、発達障害に限らず障害学生の在籍率は全国の1.05%と言われているのですが、その中でも休学・退学した方の10%が発達障害ということで高い数値だと思います。発達障害とひきこもりの関連性も指摘されておりまして、早めの介入が求められるというのが現状になります。

 

 発達障害専門プログラム、先ほど示した木曜日や土曜日に行っているASDの方を対象にしたプログラムのことを指すのですが、そちらに対するプログラムでは、そのプログラム自体の有効性を認められていて、9割の方がプログラムに終了まで参加していて69.2%の方が3年以内に就職しているというような結果が出ています。

 一方で、学生の方も参加していたのですが、学生では効果が得られにくかったり、そもそも完遂できなかったり参加率が低かったり、就職率が高くないといった結果がありました。

 

 ASDグループで学生だと効果が得られにくい背景として、社会経験の少なさ、社会経験が乏しくて、必要に迫られる場面が少ない。「ASDの問題を解消しないと」というそういった自己認知というところの乏しさや、社会での困り事を扱っているASDグループだと学生さんということでニーズが異なったり、困り事が異なっているということが考えられました。

 また大学生は公的な支援も不足しておりまして、在学中に福祉サービスの利用が難しいということもあり各大学の個別支援になってしまいます。また、大学生になって、ひとり暮らしとかも含めて生活の自立を初めて促されることもあり、中退、卒業後の就労の失敗によって支援が途切れてしまう、そんな危険性をはらんでいます。そのようなことも踏まえ、切れ目のない支援をしていくために、また大学生に適した、大学生に向けたプログラムというのを開発することになり、大学生グループというものの開発になりました。

 

 こちら (6ページ下段)は調査になるのですが、発達障害専門外来といって発達障害の方を対象にした外来の患者さんで高等教育機関在学中の方、または中退・卒業10年以内の方を対象に調査をさせていただきました。そこで在学・最終学歴は大学や大学院と回答された方が80%。中退・休学をしたことがある方は全体の30%もおりました。一般的な中途退学者というのは2.65%と言われているため、発達障害学生の中退率は全学生平均が2.4倍と高い結果ということが示されました。

 卒業群、中退休学群で見ていくと、ひきこもりの有無だけでも卒業している方のひきこもりは24.1%だったのに比べて、中退・休学している方は55.6%がひきこもりを経験していると回答されました。その後55.6%の中の半数近くは6カ月以上長期のひきこもりを経験しているということが調査で示されました。

 

 先ほど説明したように、学生だと福祉の相談機関が少ないため、学校の中で相談の窓口になりやすい学生相談室や保健センターの利用が一番多いと思われるのですが、こちらのアンケートでは半数が学生相談を利用していないという結果でした。

 理由として、役割を知らない、相談内容がわからない、必要性を感じないといった項目が高かったのですが、その他の自由記述の多くが、相談室がそもそもない、存在を知らないといった回答がとても多く、信頼できるか不安で相談できなかったというご意見もありました。

 では、どんな方に相談しているのかといった調査では、主な相談相手は「家族」が最も高いといったことが示され、この家族のサポートというのがひきこもりの脱却のきっかけとしても、とても多かったといったことが示されました。その一方で、ご家族に信頼できる相談者がいたかという質問に対しては、「いなかった」というのが42%を占めていまして、ご家族の支援の重要性というところも見えてまいりました。

 

 ここ(8ページ下段)からはプログラムの中身についてになるのですが、学生グループの学生に必要だと思うプログラム内容を聞いたところ、コミュニケーションや就労支援、社会性の獲得といった項目がとても多くて、これは本人も家族も同様に必要だと答えています。そのため、それらを中心としたプログラムの開発を進めていきました。参加したいですかという項目にも、参加したいと答えた方が半数以上占めておりまして、支援ニーズは高いように思います。

 それを踏まえて学生グループのプログラムは全11回で構成されています。全11回のうち、1回目から4回目は自己理解編と題しまして、障害理解であるとか、自分の得意・不得意を知るような回になっております。第5回目から7回目はコミュニケーショントレーニング編と題して、コミュニケーション、会話の仕方であるとか終わらせ方、アサーティブな伝え方などをやっていきます。8回目から11回目は就職活動準備編と題して、就職について中心に就労・就職準備、自分の適職は何だろうとか、履歴書の書き方、模擬面接といった就職活動についてのテーマでやっております。一般的にやっている就職活動についての説明よりも、発達障害の方に特化したような社会資源をお伝えしております。

 

 ではプログラムの内容に移らせていただきます。現在、学生グループが始まって第5期。今日の午前中も第5期のプログラムをやってきました。全部で94名の方にご参加いただいております。

 

 学生グループ参加者の困り事としては、友達関係が長く続かない、クラスがないため高校と違って疎遠になってしまうところであったり、授業、ゼミ、サークル、アルバイトなど人間関係の多様化により、コミュニケーションの難しさを感じている方も多くいらっしゃいます。これは発達障害特性のコミュニケーションの難しさも関係しているかと思います。また部活がないため、同じ価値観の人を見つけられない、自分の好きなこととかそういったところで、うまく友達ができないなどの困り事も挙がっておりました。

 ほかにもレポートの管理、優先順位がつけられない、レポート作成に時間がかかってしまう、先延ばしをして間に合わなくなってしまう、ノートがうまくとれない、頭の中で聞いたことを整理していると話を聞き逃して結局ついていけなくなってしまうといった、実行機能障害といわれる特性が邪魔をして余計に難しくなってしまうといった困り事が挙がっていました。

 

 大学で初めて経験するグループワークや、自分で計画を立てて行う卒業研究など、大学では今までなかった課題もあります。自分で一度計画を立てたら変更ができなくなってしまうという困り事や、卒論を入れると就活の同時並行、4年生になると両方やらなくてはいけなくて、もういっぱいいっぱいだという方もいました。

 また、アルバイトの面接がうまくいかない、アルバイトが続かないといった授業や研究、就職活動という面での不安・悩みというのも多く挙がっています。

 

 最後に、このコロナ禍になってオンライン授業というものが始まりました。そのことで困り事がふえていまして、オンライン授業で課題がふえている、それを自分で管理しなければいけない、あとオンラインだから、そもそも人と会わないので友人ができない、知ってる人がいない、教諭とメールでやりとりをしたり、メール送られてきた課題を全部自分で管理しなければいけないけれど、いっぱいあるから整理できなくてパニックです、みたいな方もいました。また、家で行うので気持ちが切りかえられないといった、オンライン授業になったことによる困り事というのも多く挙げられています。

 

 発達障害の特性であるコミュニケーションの問題であったり、こだわりの問題、ADHDの不注意・多動などの問題、それに加えて、大学生になって大学生特有の困り事というのも多く皆さん挙げていて、いろいろな困り事に直面していることを大学生グループをやっていて、より感じました。

 

 ここ(10ページ)からはプログラムの中身についてになるのですが、第2回目では自己理解編の「障害理解/自分にとっての発達障害とは」というテーマでプログラムを行っています。こちらは医師による講義を行っていましてASDやADHDの特性について、振り返りながら話すというのをやっています。

 

 先ほど言った、伴いやすい症状には実行機能障害や、記憶の想起:フラッシュバックのような嫌なことを思い出してしまう、感覚の過敏性:音の過敏や刺激の過敏、光のまぶしさなど、そういった刺激に過敏な方や逆に鈍麻の方もいます。

 実行機能障害は、自分で計画を立てて、それを実行して、その結果を再評価することを指すのですが、どこかでうまくいかずにつまずいてしまう、そのため先延ばしにしたり、やり忘れたり、やろうと思ってもずっとできなかったり、困り事が出やすいところです。

 発達障害特性は、診断を受けていない人でもあるということも伝えていまして、ただその特性と今困っている環境への不適応、そういった困り事があることによって診断となるという話も医師からしていただいていまして、その診断を受けることが悪いことではなくて、診断をツールとして生活を送りやすくなる方法を知れるといいのではないかと講義では伝えております。

 

 やはり診断を受けると、足枷(あしかせ)だとか、うまくいかない理由だとか、ネガティブに捉えやすい方とか、自分でそういったものを発達障害だと言われてショックを受けてしまう方もいらっしゃるのですが、それだけではなくて診断を受けることのメリットもあるんだということも話しながら、プログラムを進めております。

 プログラム終了後、自分にとっての発達障害って、プログラムを受けて何かどう変化したかというところも一緒に確認をしてお話を聞いています。

 

 第3回目では「自分の特徴を知る」という回をやっています。特性チェックシートという、小さい文字で大変見えづらいのですが、(11ページ上段)右上にあるものを活用して自分が当てはまるかどうかをチェックしてもらっています。左側に苦手なこと、右側に得意なこととかが書いてあって、それをチェックしてもらい、自分の得意・不得意をまず紙で把握してもらうところから行います。

 

 リフレーミングというのは枠付けを変えることなのですが、それを生かして自分の特性を整理してもらっています。枠付けを変えるというのは、例えばぼんやりしているとか、行動が遅いとか、そういった苦手なこと、不得意なこと、短所の見方を変えて、おおらかな人だとか、作業が丁寧であるとか、そのように長所にもなるということを伝えています。

 リフレーミングを生かして、もし短所しか自分では見えない、長所は一個もありませんという方も、見方を変えたらいろんな長所があるんだと気づくきっかけにしてもらったり、苦手なことも少し対処をしたらうまくできることもあるんじゃないかと知ってもらいます。

 この自分の長所と短所を考えてもらったものは、就職活動準備編でも自分の特性を相手に伝える回でも活用するため、皆さんにここで自分のことについて考えてもらっています。

 

 第5回目にはコミュニケーショントレーニング編で「上手な会話」というテーマで行っております。こちらではコミュニケーションとは何だろう?と、まず皆さんに問いかけます。コミュニケーションと言われると、やはり言葉のやりとりや意思疎通など、そんなイメージがあるかなと思うのですが、言葉だけではなくて、すべての言動がコミュニケーションになるという話をしています。

 意図的に発しているわけではなくても、非言語のものでも、それも情報のやりとりになっているんじゃないかと皆さんでディスカッションしております。この(11ページ下段)右上に手を腰あたりにおいて杖(つえ)を持っている方がいるのですが、これどんな人に見えますか? 人によっては腰が痛いんじゃないか、腰が痛くて、でも頑張って歩いているみたいな。それはどんなところからかというと、杖を持ってることや、手を腰に置いていること、足の幅的にこれは歩いているみたいな感じで、一切しゃべっていないし動いてもいないけど、いろいろなメッセージを発しているということがわかります。

 

 参加者の中には腰からビリビリとした、波々としたものが出ているので、きっとこれは電磁波が流れていますとか、頭の上から出ているものは雨にぬれていて、歩くスピードがすごく速くて水滴が後ろにはねていますとか、そんな見方をしてくださる方もいて、こちらも驚かされながら、楽しくディスカッションをしております。

 そのような形で、このイラストだけの場面でも、どんな情報を発しているか、それを周りはどう受け取るかを見ていくと、自分が意図しないでただ座っていたけれど、それって相手にどんなふうに伝わっているんだろうということを、少し考えるきっかけにもなったというように感想で話しもありました。

 ただ、全部がコミュニケーションと言うとがんじがらめになってしまうので、それを補うものとして言葉によるコミュニケーションがあると話すと、皆さんしっかり、自分は今こう思っているんですと言葉にすることの大事さなど、皆さんからたくさんの気づきをいただいています。

 

 その下にCES(セス)とありますが、これはコミュニケーション・エンチャンスメント・セッション(Communication Enhancement Session)の略です。こちらはASDの専門プログラムでも取り入れられている技法になります。ある場面におけるセリフカードがGOOD(いいセリフ)なのか、BAD(悪いセリフ)なのかをディスカッションしてもらうものになります。

 

 こちらが実際にやっているCESのプログラムになるのですが、大学2年生のAさん、レポートでわからないことがあります。先生には「困ったらいつでも相談していいよ」と言われています。そこに先生がちょうど通りかかりました、という場面で、Aさんは質問したいと思っています。

 これは実際の場面を目の前でやってもらって、それに対してどうだったかというのを皆さんでディスカッションしてもらうのですが、こちらのセリフですね、先生に駆け寄って「このレポートの○○についてなのですが」、皆さん何点ですかって尋ねると、0点ぐらいかなと言う人もいれば、マイナス100点ですとか、でもちゃんと内容について触れているから10点ぐらいあげてもいいんじゃないかとか、いろいろな意見が出るのですが、ここでやっぱり先生に今話しかけていいのかをちゃんと確認してからがいいのではないか、と意見がでます。

 

 これは「……(忙しそうだと判断して声をかけない)」。このセリフは何点ぐらいに思いますか。これも結構振れますね。相手のことちゃんと見ているという人もいれば、そもそも声をかける場面なのにかけていないのはどうなんだと。自分の行動や言葉に点数をつけられるのではなくて、場面のセリフに対して点数をつけるので、皆さんあまり気にすることなく自分の気持ちを話しやすいように思います。

 「すみません。少しよろしいでしょうか」とか声をかける。こちらのセリフだと、GOODな人もいれば、「少し」ってどのぐらいなのか、5分とか言ったほうがいいんじゃないかとか、そのように皆さんいろいろなディスカッションをしてもらっております。

 「先生、お忙しいところすみません。レポートについて質問があるのですが、少しお時間よろしいでしょうか」。こちら100点という人もいれば、ちょっと長過ぎて自分には無理ですと言う人もいます。不正解はないけど自分に合っていて、相手のことを考えたセリフを、最終的な着地点が皆さんの中で見つかればと思います。このような形でCESなど、自分で点数を動かしていただいて、ディスカッションするというプログラムもやっています。

 

 こちら(12ページ下段)が「関係づくり/アサーション」ですが、この回では人との関係を継続していくにはどうしたらいいのかを考えます。自己開示をすると、相手も自分に同じように自己開示をしてくれる。だから関係性が深まる。親しさの度合いによってその自己開示をする量であったり、話題は変わっていきます、ということを皆さんで共有しています。

 

 その下のアサーションですね。こちらは聞いたことありますか。アサーションというのは、自分と相手を大切にする表現技法のことを指します。自分の気持ちばかりを押しつけると攻撃型、相手の意見だけ聞いて自分の意見を全く言わないと非主張型と言うのですが、アサーションというのは自分も相手も両方大事にするものになります。

 気持ちを伝えたい状況で皆さんが困っている場面を出していただいて、それに対してまず攻撃型の言い方を考えてもらいます。左側に強い言い方、相手のことを考えず自分の言い分を優先する言い方を考えてもらい、右側に自分の気持ちを抑えて相手の都合を優先する弱い言い方を考えます。

 例えば、帰りたいのに声をかけられて長い話が始まりそうな場面のとき、強い言い方だと「もう帰るから」とか言って帰るとか、無視するのような。もう一方の弱い言い方だと「うーん、そうなんだ、うーん」と言って、いつまでも帰れない。最後にその二つを組み合わせて中間となる、ほどよいバランスのとれた伝え方を考えてもらっています。「ごめんね、今日帰らないといけなくて、また今度話そうね」など、そのような形で考えてもらいます。

 

 次に、就職活動準備編になるのですが、「発達障害の就労」について説明をしています。こちらは講義になるのですが、就労の準備性、社会資源について外部機関と連携して、講義をしてもらっています。外部機関の活用の敷居が下がって、学生グループ卒業後に外部機関を利用するメンバーもふえています。

 11回目には「履歴書/模擬面接」を行っています。自分の得意・不得意を伝えたり、身だしなみ、お互いのスキルを確認、それをロールプレイや模擬面接など実際にやってもらいます。こちら(13ページ下段)が実際に模擬面接で使っている場面で、それを読んでロールプレイをしております。

 

 グループ終了後には学生グループ担当スタッフと面談を実施して、今後についてスタッフとともに検討しております。また、終了したからといって、それで終わりではなくて、学生グループ終了者を対象にしたOB会を2~3カ月に一度開催しています。OB会では近況報告をしたり、困っていることをみんなで共有してサポートしあう、ピアサポートを行っております。

 また、大学を卒業してしまって日中活動がない方はデイケアや、木曜日のASDグループなどに参加してもらい切れ目のない支援を継続できるようにしております。

 また、学生支援者と連携をとっております。これはご本人の許可を得てですが、医療やプログラムでの様子をお伝えしたり、学校での様子を聞きながら情報共有をしたり、合理的配慮の相談もしております。

 あと、ご家族との連携ですね。家族心理教室の実施、これについては後程説明させていただきます。

 

 学生グループ終了後に、事後面談を行っております。面談の中で自己理解の促進であったりとか、自分の行動の変化、他者に対する意識の変化やプログラムの有効性について、皆さんが挙げてくれたものをまとめております。

 学生グループ参加者からのコメントでは「友達ができていくのが楽しかった」であるとか、「話す場として、とてもいい機会になった」「今まで普通の人となろうとしてたけど、難しいものは難しいと開き直れた」「自分では気づかなかったことが見えてきた」「講義よりも話し合いのときに気づきがあった」「他の人のロールプレイを見て「こうすればいいのか」と気づいた」「発達障害を持って大変なのは自分ぐらいだと思っていたけれど、「同じ悩みを持っている人がいるんだ」「私もここにいてもいいかも」と思えるようになった」といった感想がありました。プログラムは満足度72.1%という形で高い満足度をいただきました。

 グループの効果として、ほかのメンバーへ関心を示すようになったことや、発達障害について自分への特性の理解が深まっていったこと、また積極的に参加するようになり、自己表現がふえた、グループ内でほかのメンバーとの交流がふえて、自分の体験をもとにアドバイスをしあうピアの関係が生まれたなどの効果がありました。これはOB会でも見られています。就労について、現実的な検討、就労かつ就職活動への移行が見られたというのも大きな変化のように思います。

 

 家族心理教室につきまして、アンケート調査の家族プログラムに参加したいですかといった質問に対して、70%を超える方が参加したいと答えていました。ご家族自身が必要とした支援としては就労の知識、本人へのかかわり方、発達の知識といったものが挙げられました。そのため、家族心理教室のプログラムは全3回で行っています。心理教育と懇談会という形でご家族同士がかかわる時間を入れております。

 家族心理教室参加者のアンケートの結果としては、参加後に精神的な健康度や育児能力感が高まったという結果がありました。また、発達障害を持つ大学生の家族という均質的なグループであって、支援効率が高く、こういう工夫をしたらよかったよ、という話し合いが行われておりました。また、他参加者との体験を共有することで安心感が生まれており、わかるわかるとか、あるあると思えるだけで心が楽になりましたという方も多かったです。

 また、将来に対する知識や当事者体験を知ることで見通しが持てる、先輩ママの話を聞いたり、第3回目で当事者の方にしゃべってもらう機会もあり、そのときに見通しが持てたという意見もありました。ただ、もっと話を聞きたいとか、時間が足りないという意見も多かったので、継続した支援が必要かと思われました。

 

 学生グループや家族心理教室を終えた後、参加後の転帰調査では、学生プログラムへ参加することで休学している方の数は減り、履修状況も順調な方がふえたという結果でした。また、バイト、インターン、作業所といった就労へ向けての活動、社会と接点を持つ活動が増加している傾向が見られました。学生相談室や保健センターの学内の支援へとつながる割合も増加しており、医療と連携をとっていることも関係しているかもしれません。

 

 最後になります。学生グループに期待されることとして、安心して自分を出せる場所。同じ悩み・似た特性を持つ仲間との出会い。自己理解の促進。自分の経験を他のメンバーと共有する。グループを通して自分を客観的に見つめなおすこと。他者と信頼関係を築く経験。互いに支え合うピアの関係になっている。継続した関係性の構築とその練習となる場。将来を現実的に検討するきっかけになる。また切れ目のない支援を目指して、学生グループは、医療や学内支援などの支援の入り口としても活用できることが期待されます。

 もし学生グループにご興味ある方はぜひ、主治医や、当院にご連絡いただければと思います。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

 水野:はい、今井さん、どうもありがとうございました。医療の枠組みの中で、発達障害をお持ちの大学生、学生の方への対する支援ですとかプログラムというのは全国的に見ても貴重な取り組みですし、まだまだ行き届いていないところで、これからどんどん広がっていく必要があるものだなというふうに思います。

 今井さんは、今日で5期までやってもらってるようですし、1期目からずっとこの学生グループを担当してくださっていて、たくさんの経験であるとか、いろいろの実際のやりとりの中でのお話も含めてお話を今日いただきました。貴重なお話をありがとうございました。