令和4年度 昭和大学附属烏山病院 秋季公開講座


2022年11月12日(土)14:00〜15:30 昭和大学附属烏山病院 入院棟1F 食堂ホール

司会 水野 健(昭和大学附属烏山病院 作業療法士。以下、水野):

 それでは、お時間となりましたので、これより令和4年度昭和大学附属烏山病院公開講座を始めさせていただきます。私、前半の司会を担当させていただきます当院リハビリテーションセンターの作業療法士の水野と申します。よろしくお願いいたします。

司会 音羽 健司(昭和大学医学部精神医学講座 医師。以下、音羽):

 後半の司会をさせていただきます精神科の音羽と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

水野:では早速始めていきたいと思います。まず前半は、前にもスライドがもう既に出ていますが、「デイケアにおけるグループワークの効果」ということで、当院リハビリテーションセンターの精神保健福祉士、五十嵐美紀さんにお話をお願いしております。五十嵐さんはデイケアで中心的な存在として、スタッフ、メンバーさん、利用者さんの方を引っ張っていってくださっております。今日もすてきなお話が聞けると思いますのでとても楽しみにしております。では、よろしくお願いいたします。

演題① 『デイケアにおけるグループワークの効果

     五十嵐 美紀 昭和大学附属烏山病院 精神保健福祉士

五十嵐 美紀(昭和大学附属鳥山病院 精神保健福祉士。以下、五十嵐)

 皆さん、こんにちは。リハビリテーションセンターの五十嵐と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今、水野さんからもご紹介していただいたように、この食堂のはす向かいの建物、リハビリテーションセンターというのですが、そこでデイケアのスタッフをしております。そこのデイケアのスタッフをしてから10年ぐらいたっておりまして、前の仕事もグループホームとか行政で少し働いたことはありますが、前職もデイケアなのでデイケア畑で育ってきたという者です。

 なので、今日のテーマは岩波先生にいただいたんですが「デイケアにおけるグループワークの効果」、これは私の根幹を問われているようなテーマでありまして、多少緊張しておりますが、私なりのデイケアの意義であったりグループワークの効果についてお話ししたいと思います。どうぞおつき合いいただければと思います。よろしくお願いいたします。

 

 まず初めに、知っているお顔もいるのでちょっと聞いてみたいんですが、精神科デイケアを利用したことがある、精神科デイケアの存在を知っているという方、どれぐらいいらっしゃいますか。――たくさんおられますね。ありがとうございます。

 それであれば確認になってしまうのですが、デイケアというのは正確に言うとデイサービスになるんですが、高齢者のイメージがあると思いますが、「精神科」とつきますと、精神障害を持っている方が社会復帰、復学、就労などを目的にグループ活動をする通所施設とされています。つまり、入院している方を対象にしているのではなく、地域に住んでいる方を対象にする通う場所としています。

 

 多くのほかの医療機関の精神科デイケアは、大体、大規模1単位といいまして、1日30人ぐらい来るデイケアが多いんですね。烏山病院の特徴としてはかなり大きい規模でやっています。規模でいうと2単位で、マックス100人まで来られる単位でやっていて、コロナで今は下がっていますが、60人強の方がいらっしゃっています。

 規模の大きさだけではなくて、烏山病院の大きな特徴としては、発達障害専門外来をやっているとともに、発達障害の専門プログラムを13年前から立ち上げています。

 

 発達障害専門プログラムについては、過去の公開講座においてご紹介しているかと思うので今日は詳しくは触れないのですが、(資料2ページ下段の)右の表にお示ししているものが発達障害専門プログラムになります。

 大きく分けるとASDプログラムとADHDプログラムがありまして、それぞれ、お仕事をされている方、これから準備をされる方のグループがありまして、ASDとADHDだけで4グループ活動しています。

 例えば今日は土曜日なのでお仕事をしている方向けのプログラムをやっていたんですが、水野さん、ADHDプログラムは今日、何をやりましたか。

水野:今日はストレス対処というテーマで12~13名の方にお集まりいただいてやっています。

五十嵐:ありがとうございます。あとは学生を対象にしたグループもやっています。今井さん、今日、学生グループは何についてやりましたか。

今井:今日、学生グループは身だしなみと報告・連絡・相談をやりました。

五十嵐:報告・連絡・相談。ありがとうございます。こんなふうに、全20回ないし12回の会もあるんですが、1回につき1テーマを設け、発達障害専門プログラムを展開しています。

 ASDプログラム、ADHDプログラム、あと最近ニーズが高いのが、いま今井さんが話してくれた発達障害特性を持つ大学生・大学院生のグループです。かなり待機の方もおられる状況です。

 発達障害を持っている方だけを対象にしているのかと言われたら、そうではなくて、ほかの疾患、例えば統合失調症を持っている方、気分障害を持っている方に対してもデイケアという枠組みで毎日活動しています。

 OB会は、今日何グループか活動されていましたが、今申し上げたように回数があるプログラムなので、卒業してはいさようならはもったいないですので、終わった後も集まれる場所としてOB会支援ということもやっています。

 

 今も話したように毎日デイケアをやっていますが、日々のデイケアの様子を少しご紹介したいと思っています。

 「あるプログラムでのやりとり①」です。ASDグループでは、ピアサポートといって、お互いに困っていることについて話して、対処法を話し合う、意見を出し合うというプログラムをしています。例えばこれまでテーマとして選定されていたのが、過去の嫌な経験を想起してしまうとか、音とか光とかが気になってしまう感覚過敏があるとか、そういった困っていることを共有して、それについての対処を話し合うというプログラムをしています。

 このプログラムが終わった後の感想を皆さんに聞くと、「話すことで整理ができた」「困っているのは自分だけはないと思い、安心した」「自分の困っていることに対して、ほかの人たちが一生懸命対処を考えてくれたことがうれしかった」「自分の経験が人の役に立ててうれしい」などの感想が得られました。

 発達障害外来にいらっしゃっている方のほとんどが、成人になって初めて診断がついた方が多いです。それまでうまくいかなったことを自分の努力のせいだとか性格のせいだと思っている方がとても多いので、そうではなくて発達障害特性によってうまくいかなかったんだという安心感をグループで得られることは非常に大きいのかなと思っています。自分だけだと思っていた困り事を受け入れる・受け入れられる体験をグループではしたという一こまです。

  もう一つ、「あるプログラムでのやりとり②」です。創作プログラムというものを、木曜日だったかな、やっています。これは発達障害を持っている方だけではなくていろんな方々が参加して、1時間の中である工作物をつくるみたいなものですが、この日も工作が行われていました。はさみを使うプログラムだったんですね。うつ病を持っているメンバーさんが「はさみある?」と聞いたら、発達障害を持っている方が「はい。あります」、「いやいや、そうじゃなくて貸してよ」みたいなやりとりが行われています。よくある場面なんですけれどもね。字義どおりに、はさみがあるかないかを答えてしまった。

 その後で、つくられた作品についても、例えば今年の漢字を1文字であらわして、それを張り絵にしましょうみたいなやつがあり、みんな温かいの「温」であったり、平和の「和」とか書いたりしていたんですが、発達障害を持っている方の一人が、国字なのかな、読めない漢字を表現したり、あらがう(抗う)という漢字を書いたり、ちょっとテイストの違う作品を選んだんですね。それで「何でそういうのをつくるの?」とかではなくて、デイケアでは「独創的でいいね。何て読むの?」みたいな温かいやりとりが行われます。多少不自然なコミュニケーションや行動も、ほかの疾患や高齢の方から温かく見守られて褒められるという場面もあったりします。

 

 さらに「あるプログラムでのやりとり③」です。発達障害を持っているCさんが「○○さんの年齢、わかっちゃいましたよ。43歳ですよ」と言っちゃったんですよ。それに対して、統合失調症のDさんが「Cさん、何で言うんだい。誰も得しないことを言うもんじゃないよ。勉強ばかりしててもだめなんだよ」みたいなやりとりが行われました。それ以降、発達障害を持っているCさんは、すっと落ちたんでしょうね、年齢について聞くことはなくなりました。

 ASDプログラムでも話題についてはテーマとして挙げていて、年齢や宗教の話とか体形については扱うべきではないという話をスタッフからも何度もしているんですね。ただ、それでも直すことが難しかったCさんがすっと落ちた。こんなふうに、スタッフからの言葉よりもメンバー同士の言葉のほうがリアルで届きやすいということも生じたりします。

 

 たくさん毎日こういう場面に遭遇しているんですが、こういったことを見ると、デイケアとグループワーク、グループならではの効果、専門用語でいうと集団力動とも言うんですが、やはり効果はあるであろう。そういった効果を目指して、デイケアはグループワークをベースに支援を展開してきたという経緯があります。

 

 今、経緯という話をしたんですが、ちょっと話が変わりますが、デイケアの変遷についても少し触れていこうかなと思います。デイケアが生まれたのは1950年代、イギリスだと思います。日本に入ってきたのは1970年代で、当時の精神衛生センターを中心に広がりました。

 診療報酬化されたのは1974年。当時の日本の精神科医療は統合失調症を中心とした医療が展開されておりまして、重い陰性症状を持っている方がなかなか退院できない長期入院、社会的入院に展開していくという状況がありました。その長期入院を防ぐためにデイケアが役割を担ってきたという経緯があります。

 1980年代半ばに、その役割を担うために民間医療機関でもデイケアがどんどん広がっていきました。ただ陰性症状が改善されるわけではないので病棟がデイケアに転換しただけで、デイケアもどんどん居場所的な役割になっていきました。それではあまり変化がないのでそれはいかんということで、どんどん政府から、診療報酬が下がってきたり、ほかの疾患の人も受け入れなさいといった転換が見られました。

 1990年代後半になると多様性と大衆化を求められるようになりました。「うつ病」という言葉や、「デイケア」という言葉が広がって敷居が下がって、それにあわせて、いろんな方がいらっしゃるのでプログラムも多様化してきたという経緯があります。

 

 もう一つ、デイケアの診療報酬の話をさせてください。今、デイケアに1回来ると700点、つまり7000円をいただいているということになります。高いじゃんと思うかもしれないんですが、どんどん下がってきていますね。10年前は食事加算を入れて703点。今、食事は出していますが、自分で自費で出しているという状況です。開始3年たつと(週3以上利用の場合は)630点に下がってしまうということです。

 ただ、さっきも言ったように、統合失調症の方に対して一律のプログラムを出していたときの人員配置と変わっていないんです。50人の利用者の方をスタッフ3人で診るのは変わっていないにもかかわらず、診療報酬は下がっている。なので、とてもたくさんもらっているという感覚はないんですが、これはこちらの話であって、皆さんにとっては7000円払っているんだということは知ってもらいたいなと思います。

 デイケアに求められている役割は変化していて、保険証や、自立支援制度によって実質負担は多い人でも2万円ぐらいなのでシャドー(shadow)されていますが、毎日デイケアに来ると7000円掛ける月20日、14万円デイケアに払っている。14万円のデイケア、価値がありますか。――誰も首を縦に振らない(笑)。そこら辺をちょっと私と一緒にこの後考えていただけたらと思っています。

 

 日本デイケア学会の偉い人、丹羽先生が仰っているデイケア有用性のチェックポイントとして四つあります。①地域リハビリテーションに取り組まれているか(組み込まれているか?)。②生活障害やQOLの改善に役立っているか。③当事者運営を積極的に行っているか。④治療プログラムが豊富で技術化されているか。この4点をかりて14万円の価値があるかというところを話していきたいと思います。

 

 一つ目、地域リハビリテーションについてですが、これはどういうことかというと、地域生活を支える支援機関との連携を行って、ハブとしての役割をデイケアが担っているかということです。支援機関というと具体的には(6ページ下段の)真ん中に挙げられているようなことがあるんですが、保健所であったり、福祉事務所であったり、訪問看護であったり、そういった方々と日々連携をとったり、メンバーさんの情報共有をしたり、ケースカンファレンスを実施しているか否かということです。皆さん、どうでしょうか。受け持ちのスタッフは必要に応じて自分の地域の支援者とつながっていますか。ちょっと考えてみてください。

 自己評価をすると、烏山病院デイケア、これは頑張っているんじゃないかと思っています。訪問看護との連携をとても頑張っていますし、立地的にすごくメリットがあって烏山総合支所がとても近いので、福祉事務所、保健所との連携がとてもとりやすいところにあります。ただ、世田谷区民だけが集まっているわけではないので、遠方にお住まいの方の支援が十分にできているかは考えていかなければいけない。自己採点すると60点70点ぐらいかななんて思っています。

 

 2番目、生活障害やQOLの改善を意識できているかということです。よりよい「生活する」ということは、さまざまな対人関係や環境要因が関与する。難しく書きましたが、通っているメンバーさんのことを生活者、地域で生活している人と見られているかどうかということです。

 それを根本として発達障害特性や個別性を勘案しながら、一緒にアセスメントしながら目標を立てることができているかどうか。受けられていますか。考えてみてください。

 あとは、医療機関なので、どうしても医学モデルに偏りがちです。医学モデルというのは、障害は個人の中に内在しているという考え方です。一方、社会モデルというのは、障害は社会の障壁によってつくられるという考え方です。例えばコミュニケーションを必要とするであったり、空気を読むことを求められるという環境によって発達障害化されているんじゃないか。そういった考え方です。そうであれば、その基準とか環境を変えたらいいんじゃないか。合理的配慮はそこにあります。

 社会モデルを意識できているか。合理的配慮について勘案することができているかどうか。それをベースに、一般的なスキルではなくて、よりリアルな社会的なスキルを皆さんと考えられているかというところです。これは非常に重要な点なので、自戒の念も込めて、烏山病院デイケアはどうでしょうかね、40~50点なのかな、もっとよりよく頑張りたいなと思っています。

 

 3点目ですが、当事者運営の導入ということです。当事者、本人ということなので、デイケアでいうとメンバーさん自身ということになりますね。メンバーさん主体のプログラムや組織を積極的に導入できているかどうか。

 じゃあ積極的に導入しなければいけない意味は何かというのが(7ページ下段の)真ん中に書いてあることです。当事者運営の意義については偉い人たちがいっぱい論文を書いています。積極的な役割を担うことによって新しい経験を獲得できる。そのことによって成長や自信につながる。その運営の中で自分の生き方のモデルになる人に出会い、将来の予測ができる。社会の中で自分たちが置かれている現実を知り、学び合える。こういった意義、メリットがあるから当事者運営をしなさいと言われています。

 烏山病院はどうでしょうかね。頑張ってはいます。メンバーさんが司会や書記を担って、細分化された係を担ってイベントを遂行するような実行委員会方式をとったプロジェクトKとか、委員会活動をしています。ピアサポートプログラム、当事者研究というものも行っています。あとは、最初にちらっと書いてありますが、烏山病院はピアスタッフがいます。ASDグループ卒業生があるプログラムの講師を担ってくれたり、ASDグループに入ってくれたりしています。そこは大きな頑張りポイントなのかなと思っています。

 ただ、うまくいかない、悩んでいるところもあって、当事者中心のグループワークは浸透しているが、主体まで、中心までは至っていないのかなと思います。ほかのデイケア、例えば東大病院のデイケアはSST以外は全部当事者運営でやっているんです。それに比べるとまだまだだな、数も足りていないし、質もどうかなというところであると課題が多いと思います。

 難しさを感じる点としては、発達障害特性によって想像することが難しかったり、実行機能の問題があったりします。課題設定や遂行につまずいて、スタッフが介入してしまうというところがあります。その介入の仕方や必要なサポートをどうしていくかというのは、まだまだ検討していかなければいけないと思っています。ちょっと難しく書いてしまいました。

 遂行でいうと、イベントの企画を立てると、発達障害を持っている方は情報収集はとても得意です。価格の検討をしたり、いろんな比較をしたり、サイトから持ってきたり、そこに時間を費やし過ぎてしまって期日までに行動に至らないなどがあります。全てではないですけどね。情報収集できるところもすばらしいんですが、課題を遂行するためにはどういった働きかけをすればいいか、よりよい当事者運営のためにはどうしたらいいかはまだまだ考えていかなければいけないと思っています。自己採点は30点ぐらいかな。皆さんはどう思いますか。

 

 最後です。治療プログラムの洗練ということです。これはどういうことかというと、エビデンスのあるプログラムを積極的に導入しているかということです。先行研究でデイケアでこれをやると意味があると言われている代表例としては、認知行動療法(CBT)、社会生活スキルトレーニング(SST)と言われるものであったり、家族心理教育(家族心理教室?)、最近のはやりでいうと認知リハビリテーション(NEAR)とかCogpackとかありますが、そこら辺になります。それを導入しているかに加えて、やっているプログラムの効果検証を十分に行い、見直しができているかということです。

 烏山病院はどうでしょうか。エビデンスのあるプログラムとしては、CBT、SST、就労準備プログラムは行うことができています。ただ、認知リハとか、できていないことはたくさんあります。効果検証の意味では、発達障害専門プログラムは積極的に行っています。ASDプログラム、ADHDプログラム、学生プログラムは、ニーズ・実態調査を行った後、ほかの医療機関でも協力していただきながら効果検証を行ってきている経緯があります。

 ただ、まだ十分ではありません。課題としては、烏山病院は1週間で20個以上のプログラムを行っていますが、その全ての効果検証をすることは困難ですし、既存のエビデンスがあるプログラムはほとんどが、統合失調症であったり依存症であったり、ほかの疾患を対象とするものが多いので、導入は慎重に行わなければいけないというものがあります。

 ちょっと時間がないので十分に話せないので、エビデンスのあるプログラムとして、今言ったASDプログラム、ADHDプログラム、学生プログラムの効果検証の結果を皆さんのお手元の資料に載せていますので、もしご関心がある方がおられれば後で見ていただければと思います。

 軽く言うと、ASDプログラムに関しては、ひきこもり経験が多い方がすごく多いんですが、社会参加の抵抗感が強いにもかかわらず、ASDプログラムが終わった後、55%ぐらいの方が3年以内に就職したという調査です。

 ADHDに関しては、そこにおられる水野さんがまとめているものですが、ADHDプログラムに参加することで、ADHD症状、特に不注意症状の改善が見られた。学生グループであれば、学生プログラムに参加することで、授業の就学状況であったり、インターンとかアルバイトの外に向かう活動がふえたというものが挙がっています。もし関心があれば資料を見ていただければと思います。

 

 話を戻しますが、今までデイケア有用性のチェックポイントの四つに沿ってお話しさせていただきました。皆さん、どう感じられたでしょうか。もちろん人件費であったり光熱費であったり単純に14万円というわけではないのですが、皆さんが今聞いていただいた内容はそれに相当するものだったのか、現在受けている支援がそれに相当するものなのかはぜひご検討いただきたい。同時に、私たちもこの四つの点を大事にしながら頑張っていきたいなと、気を引き締めていきたいなと思っているところです。

 

 烏山病院のデイケアの有用性というところをこれからも考えていきたいのですが、朝と帰りに行われている毎日のスタッフミーティングでは、このような視点で個別や個人やグループについて話し合われています。

 「今日○○さんがこのような発言をしていましたが、どういった気持ちで発言されたんでしょうか」。スタッフ間で意見交換がなされます。「○○さんと△△さんが共同作業をして、~なやりとりがありました」。関係性がより深まるとこういった効果があるんじゃないか。そういったディスカッションが行われています。「~」を目的にプログラムをしたいと思います。 

 グループワークの可能性を信じて日々実践しております。至らない点ももちろんあります。ただ、熱意はあるので、皆さんが感じているところは率直にご意見をいただけるとうれしいななんて思います。

 

 最後に、発達障害とグループワークについて、この10年間取り組んできた中で私たちが感じていることについてお話ししたいと思います。

 

 発達障害の臨床像です。生活スキルの不足を発達障害特性として認識されず見過ごされてきて、傷ついている方がとても多いなと感じています。問題が大きくなってから、保護的な環境を離れて、特に高等教育で、高校生までは時間割どおりに先生の言うとおりにやっていれば何とかなったけれども、自主的な活動や、判断を求められることによって問題が顕在化した。集団に属した経験が乏しい方も多いのかな。傷ついてきているので、二次障害を持っている方であったり、本人の考え方や感覚に影響されていることが多いのかなという実感を持っています。

 そういった方々にグループワーク、グループをすることの意味としては、知識やスキルの獲得と気づきが一つあるだろうということ。あとは、その知識やスキルを実践で生かすことによって、行動だけではなく考え方や認識の変化にも影響を与えるのではないか。具体的には、傷ついた感覚から自己肯定感を徐々に養うことにグループが役立っているのではないか。それが高まることによって就職や就学のステップになるということもあるのではないかと強く感じています。

 

 現在の烏山病院のデイケアの利用の仕方は個別でそれぞれですが、多くの方はこのような移行の仕方をしています。発達障害専門プログラムによって、今言った知識やスキルを身につけていく。その知識やスキルを、Aコース、Bコースと書いていますが、生活支援コース、就労準備コースで、ほかの疾患の方も含めて少し大きな集団の中で実践していく、学んでいくという構造になっています。その後、デイケアで就職活動をする人もいれば、地域活動支援センターや就労支援機関につながる方もおられます。

 イメージとしては(12ページ上段の)下の図みたいな感じです。オレンジ色が発達障害専門プログラムに出ている方々。それが終わるとデイケアに移行して、いろんな方々、いろんなバックグラウンドの大きい集団の中になじんでいくというようなイメージです。

 

 これは最後のスライドになります。デイケアを安心して実践できる場所にということです。発達障害専門プログラムで知識や安心できた体験を積んでほしいと考えています。デイケアは専門プログラムで習得したスキルを実践する場です。よりリアルなスキルを学ぶことができる。多少の失敗は許される環境で練習できる場と考えております。

 

 これで本当に最後になります。私がデイケアスタッフとしてモデルとしているスタッフが2人ぐらいおります。1人は前の職場の看護師さんですが、その方が言っていた「デイケアは海の中にある灯台であるべきだ」という言葉が今もすごく学びになっています。これはどういうことかというと、暗い海の中にいても明るくともす、安心できる場にならなければいけないということです。そうなりたいと思って頑張っているところです。

 もう1人は、ご存じの方もおられると思いますが、2年前までいた福島真由さんという看護師がいるんですね。その方が私に言ってきた、「五十嵐さん、人は人の中で成長するんですよ。私も人の中で成長しました」という言葉が今でも残っています。本当だなと思って、これも私の心の中で今も生きています。

 

 烏山病院デイケアも安心して人の中で成長できる、実践できる場でありたいと、そんなふうに思っておりますので、皆さんもぜひ感じたことは率直に教えていただきたいと思います。

 私の話は以上になります。どうもありがとうございました。(拍手)

水野:五十嵐さん、どうもありがとうございました。

 それでは、少しお時間をとっておりますので質疑応答に移りたく思います。何かご質問とかある方がいらっしゃいましたら挙手をお願いいたします。いかがでしょうか。

参加者○○:今日はお話をありがとうございます。2点ほどお伺いしたいことがあります。

 1点目は、③の当事者運営の導入で、烏山病院ですとスタッフが介入する場面が多く見られるという話を伺いました。それが東大とか吉祥寺の病院になりますと当事者同士で運営ができてかつ問題なく続いているのかなというふうに理解したんですが、そうなりますと、当事者同士の運営にしても烏山病院と東大とか吉祥寺のデイケアで何かしら違いがあるのかなと思ったので、もしそういうのがわかりましたら参考として伺いたいというのが1点目です。

 もう1点は、標準的なデイケアの利用の仕方で、デイケアで就職活動という話を伺ったんですが、これはデイケアの中で求人があったのかと、もし求人がありましたら、どういった業種の求人が多かったかを参考として伺いたいです。よろしくお願いいたします。

五十嵐:ご質問、ありがとうございました。

 1点目は、スライド、「当事者運営の導入」というところから。東大、吉祥寺という具体的な名前を出しちゃって恐縮ですが、そこの病院で介入が行われていないかと言われたら、決してそうではないです。

 ここに書いてある実行委員会方式とうのはどういうものかというと、デイケアスタッフは黒子にならなければいけないというものです。司会とか役割を担っている人がしっかりそれを遂行して達成感を得てもらうために、事前の面談や打ち合わせは繰り返ししていると思います。ただ、話し合いの場面ではスタッフは何もしない。その人の達成感を応援するという技術です。なので、ほかの病院の実行委員会方式をとっているスタッフは何もしていないかと言われたら、そうではないです。

 烏山病院がうまくいっていないという理由としては、そういった話し合いの場面で介入せざるを得ないことが多いという意味で言いました。本当は黒子であって、話し合いが行われる前に介入すべきところを、その場で言う場面がたまにあるんですね。そうならないためにはどうしたらいいかということを今後考えていかなければならないと、そんなふうに考えています。

参加者○○:先ほど、話し合いの前で面談をするというところで1点気になったんですが、それは司会者の方と面談したりとかそういう感じですか。

五十嵐:ばらばらでしょうね。

ただ、恐らく話し合いが行われるプログラムの担当者との打ち合わせかと思います。

参加者○○:わかりました。もしそういうのができましたら行っていただけると助かりますと思いまして。こちらも今デイケアを運営しているんですが、話し合いのところでどうしても議論が発散しちゃって。

五十嵐:そうなんですよね。

参加者○○:私自身もそういうのを感じていて、自分にとっては実のあるOB会にしていきたいなというところがありましたので、そういった認識のずれを防ぐという意味だと、事前の話し合いとかご協力いただけると助かりますというところはあります。

五十嵐:もう1点のご質問、就職活動についてですが、求人については基本的にハローワーク求人を使って支援しています。ただ、発達障害特性の認識が広まっているとともに、企業さんのほうから、そういった特性を生かせる方を紹介してくださいということがごくたまにあるのでご紹介することはありますが、基本的にハローワーク求人を使って、一緒にハローワーク同行したり、就労支援センターにつないだり、そういった支援をしています。

参加者○○:わかりました。ハローワークだったり就労移行支援センターのほうで。業種的にはどういった業種が多いですか。すみません。答えられなかったら結構です。

五十嵐:一般枠でいうか、障害者枠、雇用主に発達障害を持っていることを伝えるかというのにもよりますが、障害求人でいうと7割8割が事務職です。一般職になると広くなるのでお答えが難しいです。

参加者○○:わかりました。ありがとうございます。

五十嵐:ありがとうございました。

水野:ほかはいかがでしょうか。いらっしゃいますでしょうか。せっかくの機会ですし、忌憚のないご意見をというふうに五十嵐さんもおっしゃったので、利用されたことがある方で感想でもご意見でもよろしいですが、いかがでしょうか。

五十嵐:水野さんの補足でも大丈夫です。

参加者○○:お話をありがとうございます。

 プログラム名を出しちゃって申しわけないんですが、デイケア向上委員会で私も参加していたことがあって、スタッフの方は黒子でなくてはとおっしゃっていたのを聞きまして、ガントチャートの導入とかを一回やってみるとかというのはどうなのかなと思ってみたんです。ガントチャートを一回使ってみると、その後に就職とかそうなったときにも使いやすいかなと思いまして。すみません。感想になってしまうんですけれども。

五十嵐:会場の方に補足すると、デイケア向上委員会は、いろんな疾患の方が集まって、イベントの企画とか、デイケアをよりよくするための話し合いを行うようなプログラムです。最近でいうとクリスマス会の企画とかしていますが、ガントチャートの導入、いいですね。よりよいプログラムにしていきたいと思います。

水野:この後の中村善文先生のお話でもデイケアのプログラムの内容とかも触れていただきますので、まだまだ質問したい方がいらっしゃるかなと思いますが、お時間もありますので、前半、五十嵐さんのお話はここまでにさせていただきたいと思います。五十嵐さん、どうもありがとうございました。

五十嵐:ありがとうございました。