2024年度 東京都精神科医療地域連携事業 症例検討会


2024年9月12日(木)17:30〜18:39 昭和大学附属烏山病院 中央棟4F 集会室  *ZoomにてWeb配信

司会進行 真田 建史(昭和大学附属烏山病院 院長。以下、真田)

テーマ『精神科訪問診療の実際と症例について』

パネルディスカッション 

武田 充弘 地域ケアこころの診療所 院長/世田谷区医師会精神神経科医会 会長

近藤 周康 昭和大学附属烏山病院 総合サポートセンター実務責任者 ソーシャルワーカー

真田:それではパネルディスカッションを始めます。ここから、今回事務を担当しています烏山病院総合サポートセンターの実務責任者、ソーシャルワーカーの近藤(周康)さんに入っていただきます。近藤さん、よろしくお願いします。

近藤 周康(昭和大学附属烏山病院 総合サポートセンター実務責任者 ソーシャルワーカー。以下、近藤)

近藤です。よろしくお願いいたします。

真田:それでは質問をお受けします。皆さんのほうで質問がある方は音声をオンにしてご発言いただければと思いますが、皆様いかがでしょうか。

近藤:(武田)先生、貴重な講演、どうもありがとうございました。実は今日はすごく楽しみにしていまして。私なんかは今は病院の連携室というところにいるんですが、まさに入院・受診相談を受けるケースは、先生の1例目、2例目であったような認知症から、ちょっと困難と思われるような、特に今回、40代の女性の方はまさしく訪問診療が行われるということで維持されているのかなと、私もすごく刺激を受けたというような状況になります。

 

 うちの病院もそうなんですが、最近、うちの病院のほうにもご挨拶いただける医療機関、特に往診をやりますということで、少しずつふえているかなという印象があります。ここは我々の取りまとめと病院の至らないところなんですが、特に西南地区の先生方、病院とか、先生方の訪問診療、すごく貴重な資源といいますか、私なんかがサービスとして利用する場合、福祉サービスの場合ですと、いろいろ手続だとか、かかわりに関しての調査というところに時間がかかったり、制度上の制約はあるんですけれども。訪問看護もそうなんですが、訪問診療というところで、医師を中心とした医療的な専門職がある程度判断ができれば入りやすいというところの利便性は非常に感じていまして、本当に活用したいというところです。

 

 一つ聞きたいのは、先生のほうとして訪問診療を受けるときのコストがかかるというようなお話もあったんですが、私なんかは訪問看護が利用するところが多いので、自立支援医療とかは使えるのかなというふうにイメージするんですが、そこら辺のハードルというんですかね、利用に関してはどんな感じですかね。

武田:ここのところ後期高齢の方の負担割合がふえたりとかいろいろありますが、実際訪問されている方は、自立支援医療を使ってある程度自己負担を減らすような形でご利用されている。事前にそういう情報をお伝えして、診断書をつくってとかという形も結構あります。

 もちろん生活保護の方なんかもいらっしゃいます。裕福な方というか、立派なおうちの方なんかはそのままお支払いいただいている場合もありますけども、そういう制度を利用して受けやすいような形をとることも多いです。

近藤:恐らく医療サービスというところではまだ入りやすいのかなということですね。今日は西南地区の先生のご参加もありますので、そこら辺も本当に利用が促進できるといいかなと思っています。

 2点目。立て続けで申しわけないんですけども。1例目のような認知症の方、今、高齢化が言われて久しいんですが、地域の方々。ただ認知症の方々がいきなり精神科ということのハードルの高さというところだとか、今回なんかはBPSD(周辺症状)の対応の困難というところがあると思うんですけれども。

 

 先生のほうは今何名か高齢者の方もいらっしゃるというところで、私どもの病院でいいますと、入院のご依頼があってもベッドがなかなか適切にあかなかったりとか、特に男性の周辺症状の大変な方がとても入院を必要として、我々も応えていきたいんですが、なかなかならなかったときに、難しい質問かもしれませんが、ほんとぎりぎりだと思うんですが、先ほど先生がお示しいただきました薬物調整を含めて、個人的で構わないんですが、どこまで訪問診療とか踏ん張れるものなのかというところでの見解を聞かせていただくと助かります。

武田:精神症状で、例えば、妄想とか興奮系の周辺症状がある方で、物を壊すとか暴力があるとか、そういう切迫した状況であれば、家族とかを含めて、なかなか在宅で対応するのは難しかったりします。逆にうつ状態で食事がとれなくて寝たきりで身体的にもかなり疲弊しているような状況だと、実は当院は点滴とかもできないこともありますが、身体的な問題が大きくなってしまっている場合は入院を選択せざるを得ません。

 あとは、患者さんの拒否があったり、単身生活でサービスも入れないとか、治療しようにも薬が使えないという状況でなかなか難渋するとか。

 もちろん訪問は何とかかんとかやって、いろいろお話を聞いて説得したりとかしますけど、そういう治療困難なケースは、入院を一旦挟んで治療を導入してということもせざるを得ない場合もあるかなと思っています。

近藤:ありがとうございました。2例目のケースは先生のほうでも迷うということで、本当に率直なお気持ちは、我々もふだん現場に行ったときに、ここまででいいのかなというような迷い、葛藤の中でやっているのは、先生と同じような思いを持ったかなというところではあります。

 先生のところでは、認知症、統合失調症、今回は自閉スペクトラム症ということの発達障害を背景に持った方、場合によったら思春期の方も含めて、そこら辺は幅広く対応はできそうなところでしょうか。

武田:私の場合、下は高校生ぐらい以上ということで、思春期は対象にはしていないんですが。高齢者、上はそれこそ90代の方も結構いらっしゃるし、上は診られるんですけども、下はそんな形でやっております。

近藤:当院のほうで西南地区の連携ツールとして今回気づいたのは、連携ツールマップという医療機関が検索できるようなツールは用意しているんですけども、先生方にやっていただいているような訪問診療をやっているところが検索しづらいというか、見つけづらい構造になっていることを私も今気づかせていただきまして、ここは連携事業をさせてもらっている者としては改善したいなと思っています。

 

 最後になります。先生の診られる地域が半径5km以内と書かれていますが、西南地区なので、目黒とか渋谷とか、この地区の医療機関の往診なり訪問診療を使うときに、情報を我々も努力したいと思うんですが、訪問診療の先生方のそういう医療機関同士で連携とか連絡をとるような、そのような機会というのは何か持たれたりとかしているんでしょうか。

武田:今のところ、訪問診療をやっているクリニックさんのエリアがあまり重なっていなくて、患者さんの取り合いになったりとかということもなくて、僕が診切れなかった方をほかの訪問診療の先生が診てくれたりとかはあるんですが、ふだんそんなにやりとりをしているわけではないのが実情で、ちょうどエリアが分かれているというのが大きいかもしれないですね。

 うちはほんと小所帯でやっていますし、他には結構マンパワーでやっているところもあるので、そういうところと連携しながらやるのももちろんありかなというのはあるんですけど、今のところはふだんそこまでコミュニケーションをとっていないですね。

近藤:ありがとうございます。我々のほうも、そこをバックアップじゃないですけども、情報をとれるような、ご提供できるような用意はしていきたいと思います。本当にありがとうございました。

石束様:質問をいいでしょうか。

真田:どうぞ、お願いします。

石束様:世田谷喜多見にあります石束クリニックの石束(嘉和)と申します。武田先生、大変興味深い症例をどうもありがとうございました。

 最後のスライドで随分不全感を感じていらっしゃるようなことが書いてありましたけど、訪問診療でやるんだったらもう限度かなというふうに考えています。先生は最後のほうで入院でもさせたほうがよかったのかみたいなことを書いていらっしゃるんですが、それに関して、どちらかというと烏山病院さんや、出席者名簿を見ると長谷川病院さんのPSWさんも載っているのでちょっとお聞きしたいことがあるんですが。

 

 私はこの患者さんはいわゆるDSM以前だとHebephrenie(破瓜病)だと思うんですが、昔は単科の精神病院にこういう人が結構いて。ただ、私は単科の精神病院に勤めたことがあるのは45年以上前のことしかなくて、私はずうっと総合病院精神科に勤めてきたので。ですから単科精神病院の方にちょっと聞きたいんですが、こういう症例は仮に何かしてあげるとしても、薬は効かないだろうし、例えばデイケアとか、そういうふうな形での働きかけができるかどうかというところですけど。

 当然この人は通院もしないんだから、通所の形でのデイケアとかそんなのは行くわけもないだろうと思うので、例えば一時的に入院して、入院生活の中で、そういったような生活訓練のようなものとかを施すということはありかなとは思うんですけれども。ただ、長期に入院させるわけには、今現在もうできない時代ですので。

 

 ちょっとその辺をお聞きしたいんですが、いわゆる単科精神病院で、このような破瓜型と思われるような人に対して、入院して何らかの働きかけをするようなメニューといいますか、そういったようなものをお持ちなのかどうかということをお聞きしたいんです。もしお持ちだったらこういう人を紹介するということもあるでしょうし、お持ちでないなら、入院してもらっても恐らく部屋でもう寝ているだけしかないだろうから、入院の意味もないだろうし。その辺をちょっと教えていただきたいと思います。

真田:石束先生、ありがとうございます。それでは、どうしましょうか。今入られている方で単科の病院というと、うちか長谷川病院さんですか。長谷川病院さんはいかがでしょうか。どなたが入られていますかね。

菅様長谷川病院の連携室の菅(貴子)と申します。入院中にこういった方にどういうアプローチというか介入ができそうかということでよろしいでしょうか。

 もちろん、活動療法とかいろいろなかかわりをこちらからご本人さんとしていくことというのはやってはいます。もちろん、お声かけをしたりとか、関係づくりのためのものはありますし。あと、グループで作業療法などに参加いただくことは可能かなというふうには思うんですけれども、ご本人にフィットするかどうかというのは本当にやってみないとわからないというところがあるので、ご入院いただくことが必ずプラスになるかどうかというところに関しては、すみません、気持ちのいいお返事ができないんですけれども。

 ただ、症例としてお受けした後に、例えばかかわりをふやしていくところで、患者さんが変化してくるという可能性は十分あるのかなというふうには思ったりもします。すみません。ちょっと気持ちのいいお返事ができないんですけれど。ぜひ烏山病院さん、いろいろな症例をお持ちだと思うので、お聞かせいただければと思います。

真田:どうもありがとうございます。いや、もう今言われたとおりで、烏山も別に特別な療法が何かあるとか、そんなことは全然なくて。恐らく最初に石束先生が言われたとおりで、やっぱり限界があるというか。今の急性期の3カ月という中でもしやるんだとしたら、これはある程度限界があると思うんですね。

 

 ただ、一つあるとしたら、環境を変える上での何かしら本人に変化が起こる可能性というのは、それはあるかもしれないですよね。この方は40代ということなので、まだそこら辺に可能性をかけるという意味での入院は考えてもいいのかなと思います。ただ、先ほどの武田先生のお話をお伺いしていると、これは訪問の中でご本人さんの中では変化という意味では相当あったと思いますし。今日初めて聞いている皆さんは、ご本人さんに会っているわけではないので、この変化ってなかなかわからないのかもしれませんが、多分、武田先生が診られている中だったら最初に比べたら相当変わってきているはずだと思うんですよね。

 

 だから、少しずつなんですが、こういう形で、なかなか入院ではうまくいかない部分が、訪問とか少し密に、しかも時間をかけてやっていく中での変化を見られているだけでも、僕は治療効果という意味では十分ではないかと思います。恐らくそういうことを石束先生も感じられているので、今そういうお話をされたんじゃないかと思いますが、いかがですかね、石束先生。

石束様:私も、とにかく薬はまず効かないだろうし、何らかの働きかけができるかどうかという形で。昔はどちらかというと収容するという形で、精神病院にはこのような方がいっぱい病院の中で生活していたわけですけれども、今はそういうことはもうできない時代なので。さっきもお話が出ましたように、例えば入院生活3カ月でどれだけこの人にアプローチできるかといったら、かなり難しいだろうなというのが私の印象でもあるんですね。

 ですから、武田先生はこれでいいのかと随分悩んでいらっしゃるような最後のスライドだったもんですから、一言で言うと、これでいいのだというふうなことを言いたいと思います。

真田:ありがとうございます。それでは、そろそろ時間ですが、NTT(東日本関東病院)の大路(友惇)先生。

大路:お世話になっております。

真田:こちらこそ、いつもお世話になっております。何かご発言はありますでしょうか。

大路:今日は貴重なお話をありがとうございました。私は五反田にありますNTT東日本関東病院で働いています。通常、割と急性期としてやらせてもらっているんですが、総合病院で体が悪い患者さんとか認知症の方が多くて、訪問診療にお願いすることが多くて、今日お話を聞かせていただいて、病院で診るだけではない、おうちの環境で患者さんを診る訪問診療の力ってすごいなというふうに感じました。

 今後とも患者さんのために連携を続けさせていただければと思いますので、よろしくお願いします。貴重なお話をありがとうございました。

真田:どうもありがとうございます。

 それでは、時間になりましたので、このあたりでパネルディスカッションを終わります。皆様、ご質問いただきましてどうもありがとうございました。また、事例の発表をいただきました武田先生、どうもありがとうございました。これをもちまして2024年度東京都精神科医療地域連携事業症例検討会を閉会します。

 

 本日ご参加の皆様には本会のアンケートをお配りしております。ご記入の上、Zoomでご参加の方は、当院総合サポートセンターへメールまたはファクスにてご送付いただければと思います。また、来年度、同じようなものを企画したいと考えていますが、こういったものを考えてほしいとか、こういったことを取り上げてほしいとか、そういったご意見もいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 本日はお忙しい中ご参加いただきましてどうもありがとうございました。

(終 了)